ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸/「不連続の世界」/幻冬舎刊

恩田陸さんの「不連続の世界」。

音楽プロデューサー・塚崎多聞は木のてっぺんにしがみつく奇妙な男を目撃する。一緒に見た
少年はその男を「コモリオトコ」と呼ぶ。一体この男の正体は――!?(「木守り男」)
『聴くと死にたくなる音楽』があるという。その噂の真相とは?(「悪魔を憐れむ歌」)
映画の撮影現場に行き会うと、その後に必ず誰かが死ぬ。因果関係はあるのか?(「幻影
キネマ」)「月の裏側」塚崎多聞を主人公にした五つの連作短編集。


「月の裏側」の塚崎多聞が再び登場。と言われても、キャラも内容もさっぱり忘れていて、
あまり続編という意識がなく読みましたが(汗)。確かに表紙を見た瞬間「『月の裏側』に
雰囲気似てるな、とは思ったのですが。ただ、作品的な繋がりはほとんどないと思われるので、
そちらを読んでなくてもあまり問題はないでしょう(覚えてない私が言うのだから確かだ)。
もちろん、読んでおいた方が楽しめることも事実ではありますが(私もおさらいしとく
べきだったと激しく後悔^^;)。
内容は基本的にはミステリですが、ホラーテイストも加味されています。私の好きな都市
伝説的な話もあり、全体的にぞくりとさせる雰囲気が漂っています。とても恩田さんらしい
独特の冷ややかな空気感がなんとも良かったです。ミステリとしては相変わらずすっきり
するようなしないような微妙さですが、多聞が考える真相が必ずしも正しくなくても、
それでいいと思わせてしまうラストの余韻の残し方はさすがです。不気味だったり、不可思議
だったりする出来事が多聞の推論で思わぬ結末に行き着くくだりは、私の最も好きな本格テイスト。
「象と耳鳴り」以来なかなか書いてもらえなかった作品をやっと書いてもらえたという感じ。
私はかなり好きでした。恩田ファンならば間違いなく楽しめる一作でしょう。



以下、各作品の短評。


「木守り男」
これはオチがさっぱりわからなかった^^;得体の知れない「コモリオトコ」の謎は結局ぼかされた
ままですが、始めにこの単語を見た時まっさきに浮かんだのはオチで使われる漢字の方でした。
普通、先入観がなければそっちを想像するんじゃないのかなぁ。ただ、多聞が目撃した状況を
考えるとこちらを想像するのも頷けるのですけれど。


「悪魔を憐れむ歌」
「聴くと死にたくなる歌」というと、私もやっぱりいろんな小説で取り上げられている「暗い
日曜日」を思い出します。どんな歌かは聴いたことがないのですが。よっぽど暗い歌なんだろう
なぁ。ことの真相はかなり黒いし怖い。真相を知った多聞が消されなかったのは僥倖というしか
ないでしょう。


「幻影キネマ」
過去のトラウマに隠された恐るべき真実に戦慄。これは上手いです。多聞が語る真相の情景を
思い浮かべてぞーっとしました。そりゃ、トラウマになるよ、これは・・・。
ポーの「ネバーモア(大鴉)」の詩は大学の授業で少しかじったので懐かしかったです。


砂丘ピクニック」
『消えた砂丘』の謎に関してはちょっと肩透かしだったかな。それで消えたって思うのかなぁ。
でも、人間の○○なんてそんなものなのかもしれない。蜃気楼が大きな蛤の夢という挿話は
面白かったですね。頭に情景を思い浮かべてくすりとしました。


「夜明けのガスパール
うわ、こう来たか!という感じでした。一作目から5作目までの間にかなり時間は流れ、多聞は
不惑の齢になってます。結婚した妻・ジャンヌが謎の失踪を遂げ、定期的に写真だけの手紙を
よこす。ことの真相を読んで、今まで飄々としたクールな多聞のイメージが変わりました。彼も
また、弱い人間だったということでしょう。ラストはジーンとしました。男の友情っていいな。
締めくくりに相応しい完成度の高い一作。



「月の裏側」を読み直したいです。多聞がどんな役割で登場したのかも覚えてないので^^;;
ホラーと言うほどの怖さはありませんが、そこはかとなく寒気を感じる作品ばかりでした。
夏には相応しい一冊ですね。