ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

森見登美彦/「美女と竹林」/光文社刊

森見登美彦さんの「美女と竹林」。

美女に会ったら伝えてくれ。俺は嫁を大事にする男だと。妄想と執筆に明け暮れた、多忙にして
過酷な日々。森見登美彦氏を支えてくれたのは、竹林であった。美女ではないのが、どうにも
遺憾である。虚実いりまぜて、タケノコと一緒に煮込んだ、人気文士の随筆集(あらすじ抜粋)。


時間がないのであらすじ抜粋です。すみません。
モリミー新刊です。一体これは小説なのか。エッセイなのか。モリミーの妄想世界爆発です。
乙一さんの嘘日記に似てますね。現実と虚構をまぜまぜして、独特のモリミーワールドに
読者を引き込ませます。うーん、オモチロイ。
主人公は我らが森見登美彦氏。そうなると、作者である『語り手』が誰だってことになる
訳なんですが、これもやっぱり森見氏と考えていいのでしょうね。どうしようもなく竹林に
魅せられてしまった登美彦氏は、知人の鍵屋さん所有の竹林を伐採させてもらうことにします。
一人で竹を伐るのは寂しいので、友人の明石氏を巻き込みつつ、竹林に挑んだ登美彦氏でしたが、
これがなかなか一筋縄ではいかず・・・と、まぁ、こんな荒唐無稽な竹林伐採話が延々と続く
わけでして。どこまで行っても登美彦氏の頭の中には竹を伐ることで埋め尽くされています。
次々出て来る、竹・竹・竹の描写で、鳥飼さんの「中空」を思い出しちゃいましたよ。ちなみに、
タイトルにある『美女』に関しては、竹林と美女は等価交換の関係にあることを示しているのだそう
です。一向に美女が出て来なくても、ツッコんではいけません。竹林に似合う黒髪の乙女や樋口さん
のような美女は出てきませんのであしからず。

ほとんどが妄想の世界なのでしょうけれど、途中ちょこちょこ実際に登美彦氏の実体験が
挟まれています。自著が出版され、評判になり、賞をもらい、あれよあれよと言う間に
スターダムにのしあがり、挙句の果てにはかねてからの憧れの君・本上まなみさんとの夢の対談が
実現!その時の興奮が、必死に冷静を保とうと押さえ気味の文章の中からもひしひしと伝わって
きました(笑)。その後のトップランナー出演の話もちらりと出て来ます。そうか、あの時の
モリミーは実は内心憧れの君を目の前にして舞い上がっていたんだなぁとちょっと微笑ましい
気持ちになりました(笑)。よっぽど本上さんのことが好きだったんだね。確かに美人だけどさ。

終盤の未来の登美彦氏の章まで行くと正直ついていけなくなりそうではあったのですが、
相変わらずの絶え間ない妄想の世界ににやにやしながら読みふけりました。


ちらっと第一章の本文を抜粋。


その日も登美彦氏は、足の向くまま、「なんだかあちらが竹林臭いぞ」というぐらいの見当で
歩いて行った。
空は果てしなく青く、風はおだやかである。
「絶好の竹林日和だなあ」
登美彦氏は呟いた。



大学の自習室に籠もって勉強しているはずの明石氏へメールを送った。
「竹、切らん?」
やがて明石氏から返事が来た。
「ええよ」



盟友明石氏の力を借りて、いざ、理想の竹林実現へ向かって第一歩を踏み出すのだ。
「二十一世紀は竹林の時代じゃき」
登美彦氏は言った。
「諸君、竹林の夜明けぜよ!」




竹林日和に竹林の夜明け。なんだそりゃ。と思いつつ、ウケました(笑)。
明石氏の軽さにも。やっぱり、類は友を呼ぶのね。



モリミーファンなら問題なく楽しめるでしょうが、初心者には意味不明かもしれない^^;
でも、文体や世界は相変わらずのモリミ調。妄想世界炸裂でオモチロかったです。
私も竹を切ってみたく・・・なったような、ならないような(笑)。
竹って、やっぱりロマンなんだね!(意味不明)