ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貴志祐介/「クリムゾンの迷宮」/角川書店刊

貴志祐介さんの「クリムゾンの迷宮」。

失業し、妻にも逃げられた藤木は、ある朝突然見知らぬ土地で目が覚めた。そこは奇妙な形をした
深紅の岩山に挟まれた峡谷のような場所だった。何故自分がそこにいるのか全く思い出せない。
傍らに置いてあった銀色のポーチの中には携帯ゲーム機が入っており、スイッチを入れると、
画面には『火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された。無事に迷宮を抜け出て、
ゴールを果たした者は、約束通りの岳の賞金を勝ち取って、地球に帰還することができる』との
文字が。そして、藤木を含め、同じ様な境遇の男女が9人が集められたことを知る。そこから、
死を賭した戦慄のゼロサムゲームが始まった――。


貴志作品の中でも評判の高い本書、実は読み逃しておりました。『黒い家』を読んだ時、
「この作家すごい!」と興奮したものの、ジャンルがホラーということもあり、その後の
作品になかなか食指が動かずほとんど読んでませんでした。しかも間を空けて読んだ「青の炎」
が私好みの作品でなかったせいで、更にその後手が出せず・・・。でも、『新世界より』を読んで、
この作家のリーダビリティを久しぶりに実感したので、未読の過去作品に手を出すことに。

んで、率直な感想は「めちゃくちゃ面白かったーー!!」。
読み始めてすぐに米澤穂信さんの『インシテミル』に似てるな、と思ったのですが、
リーダビリティや展開の面白さは個人的にはこちらの方がずっと好みでした。昔流行った
ゲームブックを基調としてるのも懐かしさが込み上げてきました。一つ選択を間違えると、
えらい状況に追い込まれ、取り返しのつかない結末を迎えてしまう。そのスリルが面白くて、
はまって読んでました。あの頃買った本、もうどっか行っちゃっただろうなぁ。久しぶりに
やってみたくなってしまった。今はRPGなんかがあるし、今更ゲームブックなんて流行らない
かもしれないけど、本でやるのはまた違った面白さがあるんですよねぇ。
生きるか死ぬかの究極のサバイバルゲームという緊迫感が全面に漂っていて、先が気になって
どんどんページが進みました。始めに食べ物を選んだ二人に関してはだいたい先が読めてしまった
けれど、それでも彼らの変貌していく様は本当に怖かった。鬼気迫るとはまさにこのこと。
人が人でなくなって行く課程をまざまざと見せつけられて、終盤の彼らのあまりの醜悪さには
背筋が凍る思いがしました。怖っ!!
貴志さんのホラーの怖いところはこういう所なんですよね。人間の奥に眠っている狂気を全面に
引き出してくるというか。どんな人の中にも眠っているであろう狂気。私が彼らの立場に立たされた
として、一番最初に『食べ物』を選ばない確率がどれだけあるだろう?目先の欲を優先して、
食べ物の方に向かってしまうかもしれない。最初に何を選ぶかなんて、ほんのちょっとのその時
の気分で変るものなのに、それが大きくその後の運命を左右する。最初の選択の大切さを実感
しました・・・。
中盤の藤木と藍の冒険要素も面白かったです。私はどんなに飢えようとも虫や芋虫だけは口に
したくないと思うけれど、本当のサバイバル状況になったらそんなこと言っていられなくなる
んだろうなぁ。藍が大して躊躇もなく○○○○を口に入れるシーンは映像を想像してしまい、
吐きそうになりました^^;;
携帯ゲーム機のキャラクター・プラティ君やルシファー君のキャラ造詣なんかは、いかにも
貴志さんらしい黒さ。陽気な口調で辛辣なことをぼんぼん言うので、あの緊迫した状況で
こんな風に言われたらさぞかしムカつくだろうなぁと思いました^^;
他にも、はしばしで『新世界より』に繋がるダーク要素を感じました。

とても面白く読んでいただけに、終盤のオチは弱冠あっけない感じがしました。まぁ、主催者側
の意図が明かされただけでも、『インシテミル』よりはすっきりしましたが。藍の真意がよく
わからなかったのが少し消化不良でした。それに、これだけ手がこんでてお金をかけた状況を
作り出して、主催者側がやりたかったことがあるものを作りたかっただけというのは、どうも
説得力に欠けるような気がしました。野呂田の存在も意味深に出て来る割に、ちょっと宙ぶらりん
だったな。

それでも、手に汗にぎるゼロサムゲーム(生き残りを懸けたこの手のゲームのことをこういうって
初めてしりました・・・無知^^;)に興奮しながら読みました。面白かった!
次は何読もうかなぁ。オススメがあったら教えて下さい。