ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

湊かなえ/「告白」/双葉社刊

湊かなえさんの「告白」。

終業式の日、幼い我が子を失った女教師はHRの場で生徒に告白する――『愛美は事故で死んだ
のではなく、このクラスの生徒にころされたのです』。じわじわと、女教師は犯人AとBを告発し、
追い詰めて行く・・・第29回小説推理新人賞受賞作。


始め、書店で何気なく新書コーナーを物色していたら、『全国の書店員絶賛』の帯を見て
読んで見たいなーと漠然と思っていた本書。新人だし、そのうち開架に並ぶだろうなんて
のんびり構えていたら、巷でえらい話題になり始め、予約数もうなぎ上り。完全に予約に
乗り遅れてしまったので、一年後でもいいや、なんて思っていたら、先に読まれたゆきあや
さんのご厚意で送って頂けることに。毎度毎度お世話になりっぱなしですみません。もう、
大阪に足を向けて眠れません(自分の部屋から大阪がどっちかわかんないけど←調べろ)。
愛してます(どうせいつもよもさんに負けてるけどっ←なぜ張り合う)。

というわけで、大変ありがたいお申し出により思いがけず早く読めることになりました本書。
前評判で「新人とは思えない筆力」というのは聞いていたけれど、本当に全くその通りでした。
ほぼノンストップで気付いたら一冊読み終えてました。確かに、すごい。話は、子供を亡くした
女教師の告白から始まります。彼女は自分の幼い子供を学校のプールで亡くし、学校を去る
ことに決めます。その前に、娘の事故についてのある告白を生徒たちにし始める。本書は
連作短編形式になっていて、その全てが女教師の事故に関わった人物の独白形式。どの人物も
どこか歪んでいて、自分のことしか考えてない自己中心的な性格で、共感できるところは一つも
ありません。決して読んでいて気持ちのいい話ではないです。みんな少しづつ壊れて、歪んで、
それぞれの道を狂わせて行く。これが一昔前だったらリアリティがないと思われてしまいそう
ですが、低年齢化した犯罪が横行している現代においては、彼らの言動が非常にリアルに迫って
きます。女教師の娘を殺したAとB、どちらも、自分の犯した罪を全く悔いていない。犯した
罪の重さも考えず、その後の自分のことしか考えていない態度にはただただ嫌悪と腹立ちした
感じなかったです。今の現行憲法のことを考え、女教師が出た手段は確かに犯罪被害者側に
立てば最も彼らに打撃を与えるやり方なのではないでしょうか。この作品の中で一番怖い人物は
やはりこの女教師でしょうね。この復讐方法を考えついたというだけでも彼女の性格の陰湿さ
が伺える気がします。最も、彼女のような立場に立たされたら誰でもこんな風に性格が変貌
してしまうのかもしれないけれど。だからといって、彼女を批判したい気持ちになったという
訳ではありません。こういうやり方が正しいとも思わないけれど、AとB、両方の内面の
独白を読んで、彼らを警察に突き出したところで、被害者側にとって神経を逆なでするような
結果が待っていることは目に見えている。女教師は多分、自分に出来る一番効果的な方法で
復讐を果たしたんだと思う。AとB、彼らの独白を読んでいて、一番怖かったのは、彼らが
自分のしたことによって幼い子供の命が失われたという事実に何の感慨も持っていないことです。
むしろ、AもBも「自分が大それたことをした」という自慢げな気持ちでいる。彼らが私には
全く理解不能のモンスターに見えました。私の甥っ子も来年は彼らが犯行を行ったのと
同じ中一になります。どうか、こんな人間にだけはならないで欲しいと願うばかりです。

話がそれました^^;ラストに関しては賛否両論あるでしょうね。でも、私としては、『よくぞ
ここまで落としてくれた』という感じでした。いっそ爽快ささえ感じるくらいの黒さ。改めて、
子供を失った女教師の執念の深さを思い知らされました。倫理的に云えば、「やりすぎ」
なんだろうと思うけど、この歪んだ人物ばかりが出てくる歪んだ物語の締めくくりには
この上もなく相応しいラストなのではないかと感じました。

とにかく、有無を言わさず読ませてしまう筆力はすごい。新人レベルを超えていることは
間違いないところだと思います。次の作品で一体どんなものを出してくるのか。
ここまでインパクトの強い作品の後では難しい気もするけれど、是非水準の高い作品を
生み出して欲しいと思います。読めて良かったです。


ちなみに現在本書の図書館予約は蔵書5冊で180件以上。あのまま開架に並ぶの待ってたら
一年後どころか、三年後とかになってたかも・・・改めて、ゆきあやさんに感謝です。
売れば今なら高く買い取ってもらえただろうに^^;
ありがとう、ありがとう(感涙)。