ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

辻村深月/「ロードムービー」/講談社刊


勉強も運動も出来て、クラスの人気者だったトシ。しかし、いじめられっ子のワタルと仲良く
し始めてから、今度はトシがいじめの標的になってしまう。トシはそれでもワタルと友達に
なれたことを後悔していなかった。ワタルはトシの一番の友達だった。そんなワタルがこの街
からいなくなってしまう。トシとワタルはある計画を遂行する為、家出をすることに――
(「ロードムービー」)。


えー、体調は昨日よりも更に悪化しておりますが、明日はお休みなので頑張って書きます。
本書の前ふりとして『冷たい校舎の時は止まる』を読んだことは、結果的には大正解だった
と思います。こちらから先に読んでいたとしたら、評価は少し下がっていたかも。確かに
絶対読まなきゃ話がわからないってことはありません。読んでなくても、十分楽しめる作品
にはなってますので。でも、読んでいた方が確実に楽しめることは明言しておきたい。ただ、
ラストに収められた『雪の降る道』のラスト部分が『冷たい校舎~』のプロローグとリンク
しているので、本書を読まれた後に『冷たい~』を読まれるのもありだとは思いますが。
はっきり言えるのは、とにかくどっちからでもいいから両方読め!ってことです。
あんなに冗長だった『冷たい校舎~』が嘘のように、本書はそれぞれがコンパクトにすっきりと
纏められています。何と言っても、表題作の『ロードムービー』の出来が素晴らしかった。
もう少し長くして、これだけの長編にしても良かったってくらい(『冷たい~』であれだけ
冗長だなんだと騒いだ後で言うことじゃないかもしれないけど^^;)。他の二編も
充分水準以上の作品ではあるのだけど、これの完成度のせいでちょっとかすんでしまった感じ
がなきにしもあらず。好きな順番で言うと『ロードムービー』→『雪の降る道』→『道の先』。
今書いてて気付いたけど、全部『道』が共通してタイトルにつくんですね。道シリーズ?(笑)
どれも辻村さんらしい切なさと優しさに溢れた作品でした。この人の作品は途中読んでてすごく
辛かったり痛々しかったりするんだけど、最後には優しさが残るところがいいんですよね。
やっぱり、好きだなぁ。



以下、各作品の短評。


ロードムービー
ちょうど終盤に差し掛かる辺りを仕事の空き時間に読んでたんです。んで、涙をこらえるのが
大変でした。主役の二人組、トシもワタルも健気で頑張りやで、ぎゅーって抱きしめたく
なりました。ほんとに、辻村さんはこういう『他人の為に頑張る子供』を書くのが上手いなぁ。
自分よりも、他人の幸せを願える子供。どうやったらこういう子供に育つんだろ。私には
子供がいないけど、もし子供が出来たらこういう子になって欲しいよ。トシの両親は『冷たい~』
に出てくるアノ人とアノ人。母さんは相変わらずのしゃべり方で笑ってしまいました。
ワタルの応援演説最高でした。そして、ラストで明かされるある事実。某ミステリーランド作品を
思い出しましたが、まんまとやられました。完全に騙されてた。でも、最高に爽快な騙され方でした。
これは辻村ファンなら絶対好きな一作だと思う。



『道の先』
主人公は『冷たい校舎~』の8人の生徒の中の一人。卒業して二年後のお話です。最初、多分
あの子かな?と思いながらもはっきりはよくわからなかったのですが(主人公の名前が最後まで
出て来ないので)、気弱な性格と、大宮千晶が‘彼女’に似てるというのでわかりました。
ただ、この作品に関してはいまいちピンと来なかった。主人公が千晶にかけてあげる言葉の
優しさは良かったけど、その優しさは男としてはどうなの?とも思ったし。辻村さんにしては
凡作だったかなという印象。まだ『冷たい~』を読んでいたから良かったけど、本書の方から
先に読んでたらもっとピンと来なかった気がする。結局、卒業してもこれからもずっと、‘彼女’
との関係は変らないんだろうね。それはそれで切ないなぁ。



『雪の降る道』
これも『他人の為に頑張る子供』のお話。こちらも『冷たい校舎~』を読んでいれば、「おお!」
って思える作品です。でも、単独で読んでもほろりとさせてくれます。ある出来事から、心身
ともに弱くなって、心を閉ざしてしまった少年を喜ばせようと頑張る少女のお話。少女の
健気さには胸を打たれました。どんなに酷い言葉をかけられても次の日も『おみやげ』を抱えて
少年のもとにやってくる少女。少年はそれがうっとうしくてついまた酷い言葉を投げかけてしまう。
どうせ彼女は翌日にはけろっとした顔をして自分が言った言葉なんて忘れてしまうのだから、と。
もう、読んでて歯がゆくて仕方なかったです。彼女はずっと傷ついているのに!一言一句、君の
言葉なんか忘れてない、早く気付いてあげてよ!って。『ぼくのメジャースプーン』の男女逆
バージョンですね。『ぼく』よりも幼い少女が頑張るんだから、健気さはひとしおです。
でも、高校生になった彼女はいまいち好きなキャラじゃなかったんですけどね・・・(なんか、
無意識だろうけど‘弱さ’を武器にしてる感じが鼻について嫌だった)。





とにかく、『冷たい~』と続けて読んだのでさすがの私もリンクは全部わかって良かった。
本当はこっちから先に読んじゃおうかなって思ったりもしてたんですが、ゆきあやさんが
あるご提案をして下さったことで、やっぱり『冷たい~』から読もうと決心できました。
とても感謝してます。やっぱり、リンクものは順番が大事だね。