ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小川勝己/「純情期」/徳間書店刊

小川勝己さんの「純情期」。

日高優作は青春真っ盛りの中学二年生。様々な妄想を働かせ、童貞喪失の日を夢見る。ある日、
女子体育教師の齋藤瑠璃子先生の驚く程に白い脚を目にした時から、先生のことが気になって
仕方がない。先生を想って妄想にふける毎日。どうしたらもっと瑠璃子先生に近づけるのか――
考えた末、優作は瑠璃子先生が顧問をしている体操部に入部することに。運動オンチで恐ろしく
身体の固い優作にとっては、部の練習は試練の毎日だった。しかし、瑠璃子先生といられる幸せ
を思えばそんなことはささいなこと――しかし、なぜか優作をいじめる校内でも有名なワル、
滝口までが入部して来た。どうやら、滝口も瑠璃子先生を狙っているようなのだ!思春期の
少年の妄想と純情がいっぱいつまった青春ストーリー。


わははは・・・。笑うしかないなぁ、これ。最初は主人公優作の溢れる性欲ととめどない
妄想に引き気味だったんですが、だんだん優作のキャラに馴染むにつれて面白く思えてきた。
中学二年の男の子なんて、こんなことばっかり考えてんのかなぁと思いながら読みました。
頭の中でイロイロ考えてても、結局ほとんど行動に移すことなく自己昇華しちゃうから、
憎めない。これを行動に移しちゃう滝口みたいな人間はひたすら嫌悪の対象でしかなかったけど。
優作はほんとに純情なんだろうね。体操部で瑠璃子先生に気に入られようと必死で頑張る姿は
結構健気で応援してあげたくなった。二年生だけど新人っていう立場を弁えて、後輩にも丁寧な
態度を取るところも好感が持てました。

終始おバカな思春期少年の妄想で終わるのかと思いきや、第三部でいきなり重い展開になって
びっくり。この辺が小川さんらしいなぁと思いました。なんとなく、優作の友人のアノ人物に
関しては何かありそうだという雰囲気が漂ってはいたので、「やっぱり・・・」って感じは
しましたが。でも、まさかそっちの展開とは予想できなかったなぁ。いくら思いつめたからって、
そこまでしちゃうかー?と面食らいました。

終盤の優作の行動は、恋によって彼が成長した証でしょうね。最初の彼だったら尻尾巻いて
逃げ出してるとこでしょう。妄想してるばっかりじゃなく、確実に主人公の成長物語でもある
とこが良かったです。ラストは意外にも爽やかで、読後感もなかなかでした。

ただ、爽やかな表紙とタイトルから直球の青春小説だと勘違いして読んじゃった人はちょっと
騙された感があるかも^^;青春小説には違いないんですけども。男性読者は共感できる部分が
多そうですが、女性はちょっと引く人もいるかもしれません^^;私は思ったよりもずっと
楽しめましたけどね。

個人的には優作の両親がポイント高かったです。突然部活に精を出し始めた息子の為に豪華な
朝食で送り出す母、友人のことで落ち込んでいるであろう息子を心配して、仕事途中で帰って
来て食事を作る父。なんだかんだで優作の人のいい所は、この両親の遺伝なんだろうな、と
思いました。

『純情期』ならではの少年の妄想、悩み、不安なんかがリアルに描けていてなかなか面白
かったです。
小川さんの『毒』を求めている方にはちょっと物足りないかもしれませんけどね。