ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

乾くるみ/「カラット探偵事務所の事件簿①」/PHP研究所刊

乾くるみさんの「カラット探偵事務所の事件簿①」。

≪あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします≫。倉津市で謎解き専門の探偵事務所
『カラット探偵事務所』で探偵助手として働く『俺』。所長の古谷とは高校の同級生だ。
前職のハードさから過労で倒れた俺を見かねて、一緒に探偵事務所をやらないかと誘われ
転職を決意した。もともと閑古鳥が鳴いている所に、『謎解き専門』に拘る古谷は、依頼を
選り好みするから事務所はさっぱり繁盛しない。そんな当事務所初の依頼は『夫の浮気調査』
だった――『カラット探偵事務所』に持ち込まれる6つの謎を描いた連作短編集。


乾さんの新刊。謎解き専門の探偵事務所に持ち込まれる謎を描いた連作集です。謎解き専門
に拘ってるとこがいいですね。まぁ、さほど目新しい設定ではないですが、のんびり太平楽
古谷と、そんな古谷や閑古鳥が鳴く事務所をなんとか盛り立てようと生真面目に頑張る井上、
二人のコンビがなかなか良かったです。
一つ一つの作品はさほどミステリとして感心するものがある訳ではなく、まぁ、お手軽に
手に取れる日常の謎系ミステリとして評価できるかなという程度だったのですが、そこは
乾さん。ただでは終わらせない仕掛けが隠されてました。仕掛け自体は先行作がいくらでも
挙げられるほど使い古されたものではありますが、今回も私はまんまと手中にはまって
ました・・・。ほんとに、自分でも「またかよ!」って言いたくなる位、すんなり罠に
引っかかってました。わかって読み返すと、かなりあからさまに伏線は張られていて、そこで
「変だな」と思わなかった自分どうなのよって思うくらいなんですが、これが人間の思い込み
ってやつなんですねぇ・・・(いい訳?)。
いやーでも、この仕掛けを読んだ後で前の作品読むと、いろいろ違う読み方が出来ますね。
この展開はかなり好きです。ベタですが、それがツボにきました。しかし、これ、タイトルに
①ってふってあるけど、ほんとに②が出るのかな?希望としてはなんとしてでもこの後を書いて
もらいたいけど、冒頭に『絶対に①から読んで下さい』とでも注意書きしておかないと、
2巻から間違って読んじゃった人は楽しさ半減じゃないのかな。それとも、①ってつけたのも
作者の策略の一つ?いろいろ深読みしちゃいたくなるんですが^^;

ラストの大仕掛けだけでなく、乾さんらしいミステリ要素が各作品にちょこちょこ挟まれて
いるのも面白い。例えば一話ならメールの文章に隠された謎、三話は数字の暗号、四話は
ラストのノンクロ。どれもかなり無理矢理って感じがなきにしもあらずではありますが、
こういう謎はミステリ好き心をくすぐってくれるんだなぁ。
何より、やっぱり6話の仕掛けには一本取られ爽快な気持ちになりました。八木剛士ショック
を忘れるには最適な作品だったと思う。良かった、これにして・・・。

これから読まれる方に一つ忠告は、短編集だからといってランダムに読んだりしないで、必ず
第一話から順番に読んで下さい。まぁ、あんまり順不同で読む人はいないとは思うけど、間違って
6話から読んだりすると面白さ半減ですので、ご注意を。
イニシエーション・ラブ』のようなカタストロフがある訳ではないけど、乾さんらしい
ひねりの効いた良作のミステリでした。個人的にはかなり楽しめた一作。お薦めです。