ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

多島斗志之/「黒百合」/東京創元社刊

多島斗志之さんの「黒百合」。

1952年夏、父親の古い友人である浅木に招待されて六甲山の別荘でひと夏を過ごすことになった
寺元進。そこで出会った同い年の浅木の息子・一彦と供に別荘の近くを散歩している途中、ヒョウタ
池のほとりで二人は一人の少女・香と出会い、その後の夏を一緒に過ごすことになる。一目で彼女に
惹かれた二人は、仲良く三人で遊びながらも、恋のライバルとしてお互いの行動を牽制し合っていた。
避暑地で繰り広げられる瑞々しい少年少女の恋物語と過去の死。すべてが明らかになる驚天動地の
ラストとは――?


昨年のランキング本に軒並みランクインした話題の作品。ようやく読めました。ただ、旅行が間に
挟まって返却期限内に読みきれず、あえなく延長。あと一日あったら読みきれてたんだけど^^;
それにしても、読みやすかった。実はこの作家さん、以前に一度『<移情閣>ゲーム』という
作品を借りて、読まずに返した経験があります^^;適当に借りてはみたものの、いざ読もうと
してぱらぱら中身をめくってみたらあまりにも読みにくそうな内容と文章っぽかったので・・・
結局きちんと1ページも読まずに返却しちゃったという・・・。もうちょっと読んでみても
良かったかもしれないなぁ。そのうちリベンジしようかな。

という訳で、文章的にちょっととっつきにくいのかな、と苦戦を想定しながら読み始めたら、
これが全くそんなことはなく、すらすらと読み進められた。ページ数も少ないのであっという間に
読み終えられました。ただ、一度読み終えて、結局もう一度始めからおさらいしながら読み直した
ので、やっぱりそれなりに時間はかかったと云えるのかもしれませんが。とにかく、伏線の張り方が
細かい。一度読んだだけじゃ全く気付けなかった部分がたくさんありました。読了して書評巡りを
して、改めて「あー、あそこも伏線だったのか!」と気付かされる部分が山ほど。ほんとに、
気付くべき伏線を見事にスルーしているところばかりで、恥ずかしいやら情けないやら・・・。
でも、これは爽快に騙されたと気持ちよく白旗を揚げるべきなんでしょう。
終盤を読むまで一体いつミステリ的な展開になるんだろうと首を傾げていたのですが(いや、確かに
途中で過去の殺人の章も挟まれるのですが)、最後の最後まで引っ張られて、ラストで初めて
緻密な構成に基づいたミステリだということに気付かされました。メイントリックに関しては
すぐに腑に落ちたのですが、それ以外の部分ではかなり読み落としがあり、おさらいしてやっと
理解できたところが多かったです。まだ気付いてない部分がたくさんありそうだなぁ・・・。
途中引っかかった部分はほとんど伏線になってました。もちろん、あからさまな伏線なのに
あっさりスルーしてしまったところばかりでしたが^^;;これは詳細な解説が欲しい作品
だなぁ。自分ひとりでは全く攻略しきれてない気がする・・・。と、最後まで読むとミステリ的
驚きに満たされた作品となるのですが、そこに至るまでは昭和の時代の少年少女のひと夏を
描いたごく普通の青春小説としか思えないんですね。文章はみずみずしく、なるほど『文芸的』
と評されるのも頷ける巧さがあるのですが、キャラ造詣なんかはもうちょっと書き込んで欲しい
所だし、三人の中に大きな事件が起きるわけでもなく、三人の恋愛関係にさほどの変化が起きる
わけでもなく、青春小説としては非常に淡々とした展開。
ただ、その合間に過去の章が挟まれることにより、青春パート部分とどう繋がって行くのか
という期待感は徐々に高まって行くのですが。ああいう風に繋がるとは。構成が巧いです。





















以下盛大にネタバレあります。未読の方は決して読まれないよう。





















私は完全に『六甲の女王』=真千子だと、素直に騙されてました^^;;そして、途中で出て
来た『黒ユリ』の存在も全く忘れてまして、黒ユリの名前の一部に『千』という字が入って
いるという伏線もおさらいするまですーーーっかり忘れて読み流してました。黒ユリが
付き合っていた男に騙され、ヨーロッパに行かされたというくだりも。よくよく考えると
誰だって気付きそうなあからさまな伏線ですよねぇ・・・あーあ。
日登美がラブレターを出した相手が、人妻と浮気をする場面でもいくつか引っかかる表記が
あったのですが、その意味にまでは達せず・・・。後から読むとなるほど、と思えたのですが
(例えば「困った体になってしもたわ」とか、その後の「指」とか・・・)。こういうミスリード
の作品はたくさん読んで来ているのに、やっぱりまんま騙されてしまうんだよなぁ。素直な私
(単にバカともいう)。
『君の名は』のヒロイン『マチコ』と真千子の符号には全く気づけませんでした^^;
マチコ巻は知ってたのになぁ。
あとは、やっぱり秀逸なのはこのタイトルでしょうね。盛大にネタバレしてるのに、読まなきゃ
意味に気付けないという。そして、読んで、納得。黒ユリのお千か・・・。ユリ、ね。


















みずみずしい少年たちの淡い恋に気をとられていると、足元をすくわれます。至る所に伏線が
仕掛けてあるので、ご注意を。
評判が高いのも頷ける作品でした。こういう作品大好きです。ミステリ好きには是非
読んで頂きたい一冊。面白かった!