ミステリ読書録

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米澤穂信/「秋期限定栗きんとん事件 上・下」/創元推理文庫刊

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米澤穂信さんの「秋期限定栗きんとん事件 上・下」。

 

小市民を目指して結んだ『互恵関係』を解消した小鳩君と小山内さん。離れて
それぞれの学生生活を送る二人に、それぞれに新たなパートナーが現れる。
クラスメートの仲丸さんと付き合うことになった小鳩君は、週末ごとにデートを
しつつ青春を謳歌していたが、ふとした瞬間についいつもの悪い癖で彼女との
会話の中で謎解きをしようとしてしまう。一方、新聞部の瓜野君と付き合い始めた
小山内さんは、学内新聞で自分だけの記事を書いて、自分がいた証を残したいと
奮起する瓜野君を応援し始めた。そして、瓜野君は市内で起きている連続放火事件
に目をつけ、それを月一回発行される学内新聞のコラムのネタにすることを決める。
取材を続ける中で、連続放火の法則を発見した瓜野君は、次に起きる放火場所を
ズバリと言い当てるのだが、それが思わぬ反響を呼ぶことになり――小市民
シリーズ待望の第三弾。


うへぇ。くっろ~~~。
読むべき図書館本が山積みなのに、結局気になって上下巻一気に読んでしまった。
相変わらず、表紙の可愛らしさに惑わされるとエライ目に遭うシリーズです。
前作のラストで互恵関係を解消した二人はそれぞれの学生生活を送ることになります。なんとなんと、それぞれに彼氏・彼女ができるという衝撃の(!?)展開に。ただ、
この二人のキャラらしいお付き合いというか、どこか冷めた距離感を保った清く
正しい男女交際。他の人といても、基本的な性格や行動はどっちも変わらず、
小鳩君はついつい謎解きをしようとしちゃうし、小山内さんはスイーツの
ことで頭がいっぱい。これで上手く行くわけないよなぁなどと思いましたが、
まぁ、案の定な展開が待ち受けておりまして。もちろん、そうなってもらわないと
こっちも困るんですけれどもね。
結局、この二人は切っても切れない縁で繋がってるんだろうなぁ。互恵関係ってのは
面白い設定ですが、できれば、互恵関係を超えた恋愛関係を築いてもらいたい。
天邪鬼っていうのとも違う、複雑な二人の性格と関係だと、一体いつになること
やらって感じはしますけれど。それに、本書のラストで小山内さんの更なるダークな一面が明らかにされちゃったしなぁ。米澤さん、
フィニッシング・ストロークに凝ってるんですかねぇ。いやー、このラストには
やられましたね。
実は、今回もミステリとしての驚きがほとんど得られなかったので、その点は少々
不満に思っていたのです。だって、連続放火犯に関するミスリードも、本当の
犯人も見当ついちゃってたので(これは多分ほとんどの人がそうなんじゃない
のかなぁ。あからさますぎるもん・・・ただ、あの人物ならばいかにもあり
得そうって所が上手いとは思うけど)。でも、このラストの黒さですべてが
どうでも良くなってしまった。このラスト一言の破壊力はすごいですね。これは
さすがに全く予想できなかった。












以下ネタバレあります。未読の方はご注意下さい。














私の予想では小山内さんが瓜野君を陥れた理由は、小鳩君がらみなのかな、と
思ってたんですよね。小鳩君と付き合っていた仲丸さんの浮気相手が瓜野君
だったとか、その友達の氷谷だったとか、とにかくそこらへんに何らかの繋がりが
あって、二人とも裏切られていたから意趣返ししたのかな、と。まぁ、良く考えると
小山内さんが他人の為に復讐なんてする訳ないんですけど、そこはそれ、小鳩君は
特別なのかな、とか思ったりしたんですけど、まさかまさか、あんな理由だったとは・・・!!
こ、こっわ~~~^^;;;しっかし、こうなってくると、万が一小鳩君と
恋愛関係になったとしたら、小鳩君は大変だろうなぁ。健全な男子高校生
(彼に限っては、そうとも言えないか?^^;)としてはこの理由を聞いちゃって、
これからのお付き合いをどうするか悩むところでしょうねぇ。
うかつに手を出したら何されるか・・・ひぇぇ。
でも、個人的には瓜野君には全く好感が持てなかったので正直、いい気味って
思ってしまった。
彼も、これでいろいろ反省するでしょう。
タイトルがマロングラッセから栗きんとんに変わった理由も納得でした。
なるほどねぇ。
煮られて潰されて、裏ごしして、何度も手を加えてやっとアクが抜ける関係。
いとしの栗きんとん。
やっぱり、この二人は複雑だ(でも、そこがいい)。









それにしても、こんなに薄いなら上下巻に分けることないじゃん・・・って思うん
ですけど、やっぱり米澤さんのこのシリーズへの拘りなんだろうなぁ。多分、
分厚い本にしたくないんでしょうね。なんせ、『目指せ小市民』ですからね。
小市民らしく、薄く目立たない厚さ。
値段も控え目(っていっても、上下巻あわせたら文庫にしてはご大層な値段に
なるんだけど^^;)。
下巻が出るのを待って一気に読んで良かったです。上巻のあそこでおあずけ
食らうのはかなり辛い。できれば上下一気に読むことをおススメします。

 

一作ごとに黒さを増している気がするこのシリーズ。次巻ではついに、二人に
恋愛感情が芽生えるのか?冬期が待ち遠しいです(一体、いつになるやら
・・・^^;;)。