ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今野敏/「とせい」/実業之日本社刊

今野敏さんの「とせい」。

日村誠司は昔ながらの任侠道を貫く阿岐本組で代貸を務めるヤクザ。組長の阿岐本は一本筋の通った
男気のある人物だが、文化人に憧れ、自分もいつか文化人と呼ばれたいという困った願望を持って
いる。そんな阿岐本の元に、若い頃に兄弟の杯を交わした広域団体の組長・永神から現在倒産しそうな
出版社の始末で困っているという話が持ち込まれる。文化人に憧れる阿岐本は、自分がその出版社の
社長になり、会社を再建すると言い出した。当然の如くに日村も役員として出勤を命じられ、翌日から
会社勤めの日々が始まった。慣れない堅気の仕事に四苦八苦する日村に、更なる受難が次々と襲い
かかる――痛快任侠エンターテイメント。


この間読んだ『任侠学園』が大変気に入った作品だったので、その一作目だという本書を早速
借りてみました。うんうん。こっちも『任侠~』に負けず劣らず痛快で面白い作品でした。
文化人に憧れる阿岐本の思いつきで、倒産しかけた出版社に乗り込んだヤクザの代貸・日村の
受難をテンポ良く描き、大変痛快なエンターテイメントになっています。普通に考えて、ヤクザ
が出版社の経営に乗り出したって巧く行くはずがない訳で、展開はかなりご都合主義と言わざるを
得ません。でも、そこが小説の面白さ。人事を入れ替え競争心を芽生えさせることで、日和見
だった社員たちの意識を変えたり、日村の弟分のアイデアによってグラビア雑誌やファッション雑誌
の紙面をいじることで発行部数が上がったり、会社自体も社員も少しづつ変化が生まれて来る、
その過程が実に痛快で気持ちがいい。舞台となる梅之木書房の社員たちのキャラも良く、始めは
胡散臭く思っていた日村や舎弟たちとの関係が変わって行くところも好きでした。この辺りの
過程は「任侠~」とほとんど同じ。日村たちと関わる人はみんな、彼らの真っ直ぐな任侠道や
人柄に惹かれて行くのでしょうね。読者もしかり。ところどころでほろりとさせる人情エピソード
がはさまっているところがまたツボに来るんですよね。特に、真吉の万年筆のくだりはぐっと
きたなぁ・・・。大切なものを守るために捨て身で立ち向かう彼の心意気に胸が熱くなりました。

今時恐ろしく時代がかった任侠道を貫く阿岐本や日村の言動は、ヤクザだってことを忘れるくらい
爽快な気持ちにさせてくれます。自分たちが極道であることを弁え、一般人に被害がかからない
よう気を遣って生活してるところが好ましい。地域密着型のヤクザというのか。近所にいたら
やっぱり怖いと思うけど、火消しまで請け負ってくれるんだったら一般人よりよっぽど役に立ち
ますね(笑)。

それにしても、日村がページが進むごとに目に見えてどんどん衰弱して行くのはちょっと気の毒
でした。なまじ生真面目で変に義理堅いところがあるから、余計な厄介ごとを背負い込んでしまう
のですね。損な性分ですが、そこが日村の魅力。頑張れ、日村ー!とついつい応援したくなりました。
でも、火の中に飛び込んだ時はさすがに「まさか、そこまで!?」と目が点になりましたが^^;
無事で良かったよぉ・・・(T_T)。

「任侠~」同様、ラストはかなりあっけない。まぁ、もともとおやっさんの道楽で始まってる
から、仕方ないのでしょうね。この後を引かないあっさり感がシリーズの魅力とも言えますね。
でも、ラストシーンはとっても爽やか。暖かい気持ちで読み終えられました。
やっぱりいいなぁ、このシリーズ。大好き^^
また、このメンバーで作品を書いて欲しいです。みたび、おやっさんの悪いクセが出ることを
願っておこう^^