ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

海堂尊/「医学のたまご」/理論社刊

海堂尊さんの「医学のたまご」。

ごく平凡な桜宮中学の一年生・曽根崎薫は、世界的なゲーム理論学者の父・曽根崎伸一郎が作った
試験問題でうっかり全国一位の成績を取ってしまい、名門・東城大学医学部の研究チームの一員に
大抜擢される。得意の歴史はともかく、それ以外の教科では落ちこぼれ気味の頭脳しか持って
いないカオルは、右も左もわからない高等医学の世界に突然放り込まれて四苦八苦。しかし、
同級生で医学部志望の三田村に助けを借りて、世紀の大発見をしてしまったらしい。そして、
その実験結果の論文を巡ってとんでもない事態に巻き込まれることに――。ミステリYA!シリーズ。


海堂さんのミステリYA!シリーズ。海堂さんの作品、だんだん私の好みとズレて来てしまって、
積極的に読む気になれずにいたのですが、先日ようやく開架に並んでいたので借りてみました。
そんな訳で大して期待せずに読んだのですが、これが予想外に面白かった。何故横書きなのかは
よくわかりませんでしたが(ちょっと読みにくかった。父親とのメール部分が多いせい?)、文章
自体はYAを意識しているだけあってとても読みやすく、主人公のカオルが慣れない医学の世界に
潜り込んであたふたおろおろする姿がコミカルで軽妙に描かれていて楽しめました。カオルが
医学オンチなので、いきなり高度な医学の世界に放り込まれて戸惑ったり疑問に思ったりする姿
は医学の知識のない私も非常に共感できました。海堂作品ではいつも医療関係の用語でおいてけ
ぼりを食らわされることがほとんどなので、主人公が自分と同じ目線の立場というのはなかなか
新鮮でした。もちろん、YA向けということで、そういう設定にしたのでしょうけれど。難解な
医学用語が出て来るのは相変わらずなのですが、それが自分と同じように「わからない」人間が
出て来るだけでこれだけ安心感があるものなのね(苦笑)。

始めはスーパー天才中学生医学生などと周囲からもてはやされて鼻高々なお調子もののカオル
少年ですが、東城大でいろんな人と出会い、事件を経験して大人の事情を学んで行くことで、
少しづつ成長して行きます。父親とのメールのやりとりや、同級生の三田村や美智子との友情、
東城大の仲間になる桃倉や高校生の佐々木少年との関係など、どれもカオルを成長させる要素
として上手く挿入されていて、身につまされたり、ジーンとさせられたり。ラストではカオルに
とって最大の試練が待ち受けていますが、きちんとそれに立ち向かい、乗り越えようと頑張る彼
の姿が感動的でした。

カオルを持ち上げるだけ持ち上げ、問題が発生したら全てを彼のせいにして自分の保身を優先
させた藤田教授には終始ムカムカしっぱなし。こんな人間が医療に従事してていいの!?って
憤りたくなりました。でも、どの分野でも上に立つ人間ほどこういうタイプが多いんだろうなぁ。
それだけにラストはすかっとしました。カオルパパの手回しと、それをつきつけた佐々木少年
拍手。でも、一番はにっくき藤田でさえも庇おうとした桃倉さんの心意気かな・・・彼の言葉
には私もカオル同様「なんで、どうしてっ!?」って問い詰めたくなりました。真面目に頑張って
いる人ほど報われないなんて。今後の彼が心配でなりません。

バチスタシリーズとあちこちでリンクがあるのもファンには嬉しい要素でしょう。私は気付いて
ないところがいっぱいありそうですが(未読作品もあるし^^;)。田口先生の出世にはビックリ
でしたが、やっぱりね~って感じでニヤニヤ。時代背景は『黄金地球儀』よりも更に未来なのかな?
あれに出て来た平介の息子が雄介ですね。確かに平介の血を引いている感じがひしひしと・・・(笑)。
あと、『ナイチンゲール~』に出て来た目の癌に犯されてた子が高校生に成長した佐々木君?
ちょっと細かいことを覚えていないのでうろ覚えの知識(手元に本がないので確認できないので
間違っていたらゴメンナサイ^^;)。翔子さんもちょっとおばさんになって(苦笑)、エラくなって
ますね。うーん、相関図が欲しい。そういえば最近ガイドブックみたいなのが出たんだっけ。

顔は出て来ないけど、やっぱり陰の功労者はカオルパパでしょう。あっさりしたメールのやりとり
が普段の親子関係を表していて面白かった。含蓄のある言葉も胸にずしんと来るものが多かった
ですね。そして、息子に送ったラストのメールの一言がとても胸に響きました。この言葉はきっと、
カオルも嬉しかったでしょう。

このレーベルには失望させられることが多いのですが(^^;)これはかなり気に入りました。
カオルの東城大での冒険はまだまだ続くようなので、続編が出るならば是非とも追いかけたい。
正直、バチスタ本編よりも気に入ったくらい。海堂さん、もうちょっと追いかけてみようって気に
なりました(何故上から目線?^^;)。続編が待ち遠しい。