ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

万城目学/「鹿男あをによし」/幻冬舎刊


教授の勧めで二学期限定で奈良の女子高で教師をすることになった「おれ」。授業初日から遅刻
してきた女子高生・堀田イトに注意を与えると、教室の黒板に毎日いやがらせの落書きが書かれる
ようになる。指導教授から『神経衰弱』と評された通り、プライドは高いがナイーブな「おれ」は、
慣れない教師の仕事のせいですぐに腹を壊してしまう。そんな心身ともに参っている「おれ」の
前に、あろうことかしゃべる雌鹿が現れ、「世の中を救う為に‘運び屋’になれ」と言ってきた
・・・!奈良を舞台に繰り広げられる奇想天外エンターテイメント。


万城目さん、読み逃しの一冊。ようやく読めました。京都・奈良旅行に行ったばかりだったので、
随所で行った土地や神社などが出てきて、非常に楽しめました。読み始めた時は、「行く前に読み
たかった~」と思ったのですが、読み終えてみて、行ってから読んで良かったかも、と思い
直しました。特に奈良の春日大社東大寺、京都の伏見稲荷などは、行ったばかりなので頭に
情景がすぐに浮かんで来ました。伏見稲荷の狐のお社なんかは、自分が思ったそのまんまの
妖しさが描写されていましたし。残念だったのは平城京跡に行きそびれたことかなぁ。今度
奈良に行く機会があったら絶対行ってみたい場所です。何もないらしいけど、頭上いっぱいに空が
広がっている光景、是非見てみたいです。

読んだ友人がよくわからい話だった、みたいな感想を述べていたのですが、私はすごくシンプル
なストーリーで、わかりやすい話だと思いました。神様に踏んずけられたなまずが起こす地震
三匹の神獣たちが鎮めている、という壮大なんだかまぬけなんだかよくわからない設定は確かに
あまりにも奇抜でとっつきやすいとは言いがたいですが。でも、奇想天外なファンタジー要素を
軸にしながらも、剣道大会での爽やかな青春小説要素や、しゃべる鹿とのコミカルなやりとり
など、読者を楽しまされる要素が随所に盛り込まれ、退屈せずに読み進められました。所々で
ためになる薀蓄なんかも挟まれていてお勉強にもなりました(十二支の順番とか、60干支の
こととかいろいろ)。まぁ、すぐに忘れちゃうと思いますけど・・・(トリ頭^^;)。

それぞれのキャラも個性的で良かったです。主人公の性格やキャラは漱石の『坊ちゃん』を
彷彿とさせました。新しい学校に赴任した先生というシチュエーションも一緒だし。なんたって、
ヒロインが今時『マドンナ』ですからねぇ。でも、本書の真のヒロインはマドンナの方ではなくて
堀田イト嬢でしょうね。野生的魚顔とはこれいかに。と思うのですが、私の中では完全にドラマを
やっていた多部未華子ちゃんの顔が浮かんでました。確かに万城目さんの描写を読むと、彼女の
顔がぴったりはまるんですよ、これが。目が少し離れていて魚顔。なるほど。「おれ」は玉木宏
だとかっこよすぎる気がするんですが^^;ところで、綾瀬はるかって誰役だったんでしょうか。
原作だと男の役だと聞いていたのですが。ドラマ観てないから全然わからなかった^^;
かりんとう兄弟の片割れ、藤原君?

やっぱり、一番好きだったのはしゃべる雌鹿と「おれ」とのシーンかなぁ。何げに会話に「シカ」
を盛り込むくだりに噴出してしまった(「シカるべきときに、シカるべき相手から~」「シカし、
相手って誰だ」)。雌鹿なのに渋い男性の声ってとこも笑えます。中身は雄鹿だからしょうがない
んだけど^^;
ポッキーが大好物っていうのも可笑しい。確かに奈良の鹿さん、なんでも食べそうでしたが。
そういえば、主人公が鹿せんべいを夢中で食べるシーンを読んで他人とは思えませんでした(笑)。

終盤、主人公のたった一つの願い事の選択に彼の今後が心配になったのですが、ラストのラストで
ニヤリ、の展開。ベタだけど、こういうラストシーンはドラマチックで好きだなぁ。むふふ。
でも、その後会うことはもうないんだろうなぁ・・・と思うと、ちょっと切ない、かな。

この作品読んで、奈良の鹿さんにポッキーあげちゃう観光客が増えちゃったんじゃないだろうか・・・
と余計な心配をしてしまうのでした(私も、ついあげたくなったもん)。ちなみに、藤原君の
かりんとうは、食べたくなりませんでした(笑)。


あをによし 奈良の都は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛りなり


藤原君曰く、奈良に来て『あをによし』の意味を知らないのはいけないことらしい。
『あをによし』『奈良』の枕詞で、青色と丹色が色鮮やかで都の眺めは素晴らしいって感じの
意味なんだそうです。80へぇ?(笑)
あれ、でもそうするとタイトルが変に感じるな・・・枕詞じゃないじゃん^^;