池井戸潤さんの「果つる底なき」。
二都銀行の融資課で融資を担当する伊木。ある朝、同じ融資課で債権回収担当の同期・坂本が伊木に
向かって「これは貸しだからな」と謎の言葉を残して回収に出かけて行った。その日の午後、坂本は
車の中で倒れているところを救急車で病院に運ばれ、そのまま亡くなった。死因は蜂アレルギーに
よるアナフィラキシー・ショックによるものだった。その後の調査で坂本が顧客の口座から不正に
送金を行っていた事実が判明する。坂本の仕事を引き継いだ伊木は、坂本の残されたファイルから、
坂本がかつて伊木が融資を担当していた会社の倒産の原因となったある半導体会社の不審な融通手形
を発見する。坂本はこの件を調べていて殺されたのではないか・・・不審に思った伊木は、事実を
調査し始めるが、この件に関わったと見られる人物が次々と不審の死を遂げ、伊木自身の身にも
危険が迫る――第44回江戸川乱歩賞受賞作。
池井戸さんの乱歩賞デビュー作。出版当時結構話題になっていたので気にはなっていたものの、
金融ミステリというジャンルにどうも食指が動かず、読むのをためらっていました。ここ数年で
何作か氏の作品を読んでみて、安定した実力を持った作家であることがわかったので、ようやく
手に取ってみた次第。
金融のシステムに関しては相変わらず素人の私にはよくわからない場面も多かったのですが、特殊
用語が頻発する割にさほど難解という印象を与えず、スピーディに読ませる筆力はデビュー作から
健在。親友の不審死をきっかけにして、次々と明かされる謎と、それを取り巻く人間関係の機微が
実にリアルに真に迫って描かれます。難解な金融システムを軸にしながら、そこで働く人間たち
の内面描写まできっちり書かれているところが秀逸です。頭が固く、出世やお金や保身のことしか
考えていないステロタイプの強欲上司が出て来るところもお約束(笑)。今まで読んだ作品と違う
のは、デビュー作だからなのか、かなり派手に人が死んで行く点。動機は最初から誰もが見当が
つくと思うのですが、正直、ここまで犠牲者を出す必要があったのかは疑問が残ります。犯人が
ヤクザというならわかるのですが・・・。銀行が舞台なのでその辺は少し違和感がありました。
人間、強欲になるとこうなってしまうということなのか・・・。
所々に情に訴えるような人間ドラマが挟まれているところはやっぱり池井戸さんらしく読ませて
くれます。主人公・伊木と、東京シリコン社長とのエピソードや、裏切られても最後まで相手を
信じていた信越マテリアルの難波の言葉なんかにはぐっと来ました。伊木たちに逃亡を勧められ
ても頑にそれを拒んだ難波の態度にはこちらが歯がゆくなりました。それでも、最終的に彼が
信じたことは間違っていなかったので、少しだけ救われた気持ちになりました。
以下弱冠ネタバレ気味です。未読の方はご注意下さい(毎度、すみません^^;)。
ただ、実は犯人の名前を知っても最初ピンと来なかったんですよね・・・^^;;これ、誰だっけ?
状態で、前に戻って確認してしまった^^;銀行内部だけでも結構登場人物が多いので、整理
しながら読まないと誰が誰だかわからなくなるかもしれません(って、私だけか?^^;)。
そういう意味では、もう少し犯人に繋がる伏線は欲しかった気がします。ってか、もう少し
登場回数を多くしても良かったと思うのですが・・・そうするとわかりやす過ぎちゃうのかな^^;
主人公の伊木がなかなか熱くてハードボイルドで格好良いのです。銀行内部ではマイノリティーな
存在で、保身や出世優先の上司からは疎まれるけれど、その一本気な性格を気に入った人間からは
徹底して可愛がられタイプというか。正義感の強い伊木のような人間はどんな会社にもいて欲しい
存在。たくさんの大切な人の為に、身の危険を感じながらも逃げずに調査を続けた伊木の男気に
惚れました。何故かピアノを弾いちゃうところも個人的にはかなりツボでした(笑)。
終盤の猫のサキとのシーンも良かったな^^
いろんな要素を盛り込みながらも、きっちり読ませるスピーディな展開になっていて、一冊
通して楽しめました。金融ものと敬遠せずに(自分のことは棚に上げておく^^;)手に取ってみて
頂きたいエンターテイメントな作品でした。
やっぱり、池井戸さんは安定して楽しめる作家さんですね。
未読をどんどん減らして行きたいです^^