ミステリ読書録

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三崎亜紀/「廃墟建築士」/集英社刊

三崎亜紀さんの「廃墟建築士」。

六月に起こった殺人事件を皮切りに、ビルの7階で死亡事故が多発。市は市内のすべての7階を
撤去することを決めた。一月後、マンションの7階に住む『私』の元に市役所の職員がやって来て、
7階を撤去する為、同じマンションの同じ間取りの10階の部屋に引っ越して欲しいと言ってきた。
返事を保留しているうちに、取引先の会社に勤める並川さんの勧めで七階を守る決起集会に参加
することに――(「七階闘争」)。不思議な建物を巡る4つの物語を収録。


タイトルからして面白そうだったのでこれは読んでみたい、と思っていたところ、普通に開架に
置いてあってラッキーでした。まだまだ予約いっぱいかと思ってたんですけど。蔵書数が多いのかも。
実はタイトルの廃墟建築士が主人公の連作集なんだろうとか思っていたのですが、それぞれ独立した
作品でした。ただ、共通しているのはどれも『建物』が主役だという点。こういう連作方法も面白くて
好きなのですが・・・ただ、正直な話、個人的に面白いと思ったのは図書館の話くらいで、あとは
いまひとつ心に響くものがなかったです・・・。どうも、やっぱり三崎さんの『敢えて書かれない
部分』が私には消化不良に思えてしまう。だから、何なの?って言いたくなってしまうのです。
説明不足だから、物語に深みが感じられないというか。説得力がないというか・・・うーん。
二作読んで、やっぱりこの作家さんは私には合わないのかもしれない、との思いが強くなりました。
発想力は抜群だと思うのですが、それが読ませるべき『作品』にまで昇華しきれていないように
感じられました。残念。あれ、黒べる子・・・?^^;;;



以下各作品の短評を。

『七階闘争』
やはりこの人は『喪失』をテーマにするのが好きなんでしょうね。そして、『戦争』と。七階で
死者が出たからといって、街全体で七階を失くすって、なんじゃ、そりゃって感じでした^^;
並川さんがそこまで七階に拘った理由もよくわからなかったし、市と七階を守る人たちが闘争
状態になるのも?でした。なんだか、有川さんの『図書館戦争』シリーズを思い出しました。
何故そこで人が死ぬような争いにまで発展するか、の説得力が感じられないという意味で。
主人公が私と同じような考え方の人間だったのがせめてもの救いというか。主人公の疑問には
いちいち共感できました。

『廃墟建築士
これは一番期待していたのですが・・・思っていたのとは随分違っていて、ちょっとがっかり。
そもそも『廃墟建築』という定義の説明が回りくどくてあまり理解できなかった。人に使われなく
なって時間をかけて朽ち果てて行く建物が廃墟っていうのであって、新しく『廃墟を作る』という
のはどうも矛盾を感じる表現だと思うのですが・・・って、こういう基本的な部分を突っ込んじゃ
ダメなんだろうけど・・・。『廃墟』自体の魅力があまり感じられる作品でなかったのが残念。

『図書館』
先に述べたように、図書館好きとしてはこれが一番面白かった。図書館の本が『飛ぶ』という
イメージは、以前に読んだ本にまつわるアンソロジー本からはじまる物語』に収録された
「The Book Day」にも出て来ますね。三崎さんの好きな設定なのかな。
ただ、唐突に人間が本になったり伝説の生き物(一角竜鳥)になっちゃったりするのはやりすぎ
かなぁと思いました。図書館でこういう『夜間開館』があるなら行ってみたい。夜の図書館。
ワクワクしますね。

『蔵守』
うーん。これも発想は面白いんだけど・・・。最初、蔵と蔵守の視点の区別がつかなくて、同じ
だと思って読んでしまった。途中で違うことに気付いたのですが・・・口調が微妙に違うものの、
同じ「私」の一人称なので混乱しました。これも蔵守自体の設定に納得いきかねるところがあって、
なんだか乗り切れなかった。そして、やっぱり最後に蔵守と略奪者が殺し合いになるところに
疑問を覚えました。もともと蔵守を派遣する側の人たちが何故蔵を守る責務を全うした人を襲撃
するのか。なんだか、何でも最終的には殺し合いに持っていけばいい、みたいな終着のつけ方
は好きになれない。



三崎さんの作品って、どれも救いがないものが多い気がします。伝えたいものがはっきりしない
のも好きになれない原因かも。どうも、私の好みとはズレがあるようです。多分長編の二作も
ダメだろうなぁ・・・。むむ、『バスジャック』どうしよう。