ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

百田尚樹/「BOX!-ボックス!」/太田出版刊

百田尚樹さんの「BOX!-ボックス!」。

恵美須高校の英語教師・高津耀子は、ある朝電車の中でタバコを吸った中学生たちに注意を与えて
絡まれていたところを、一人の少年に助けられた。少年はあっという間に中学生たちを倒し、風の
ように去って行った。耀子の心に強烈な印象を残したその少年・鏑矢は、恵美須高校の一年生で、
ボクシング部の天才と言われていた。鏑矢の幼馴染・木樽は、そんな鏑矢に憧憬の念を抱いていた。
優等生の木樽は、中学時代に同級生からいじめられ、弱い自分にコンプレックスを持っていたからだ。
そして、木樽はある出来事をきっかけにして、鏑矢と同じボクシング部に入部する決意をする。学校
からの要請でボクシング部の顧問を任された耀子は、対照的な二人の少年のボクシングへの情熱に
次第に感化されて行く――心を揺さぶられる熱き傑作青春小説。


昨年の9月の終わりに予約して、ようやっと回って来ました。ヤフーブログではほとんど記事を
見かけたことがないのですが、いろんな書評サイトで大絶賛を浴びていた青春小説で、とても
読むのを楽しみにしていた作品。それにしても、予約してからあの『王様のブランチ』でも紹介
され、本屋大賞候補にもなった話題作な筈なのに、未だに図書館の蔵書が一冊ってどういうことなんだ。
今でも予約数が70人もいるのに。大して人気もなさそうな本の蔵書がたくさんあったりする
ことも多いし、ウチの図書館、一体どういう基準で蔵書数を決めているのやら。

さてさて、本書。確かに直球の青春小説でした。ボクシングを通して育まれる二人の少年の成長や
友情が描かれます。一人は天才的なボクシングの才能を持ちながら、練習嫌いでしょっ中問題を
起こす鏑矢。そしてもう一人は優等生で運動などしたこともないひ弱な身体ながら、こつこつと
練習を重ねる努力型の木樽。対照的な二人は、ボクシングスタイルも正反対。親友でもありライバル
でもある二人は、紆余曲折しながらそれぞれにボクシングと向き合って行く。とまぁ、簡単に
言うとそんな感じ。展開はかなりご都合主義的なところもありますが、この手の青春小説はその
ストレートさが売りな所もあるので、これはこれで良いのでしょう。確かに面白かったのですが、
正直なところ、三浦しをんさんの「風が強く吹いている」や佐藤多佳子さんの「一瞬の風になれ」
森絵都さんの「DIVE!」なんかと肩を並べられる程の青春小説とは思わなかったです。とにかく、
作者が放送作家だから仕方がないかもしれないけれど、文章表現が稚拙。勢いはあるのだけど、
同じような表現や説明が何度も出て来てくどかったり、一つのセンテンスで個人の呼称がころころ
変わったりして、引っかかる箇所がいくつもありました。単語の誤表記も多かったし。そして、
肝心のボクシングシーンの描き方も単調で、ボクシングを知らない人間には少々退屈に感じました。
ボクシングの特殊用語が頻発するので、頭にシーンが思い描けなかったし。一応巻末に用語解説は
載っているのですが・・・。このレベルの文章を600ページ近く読まされるのは少々きつかった。
せいぜい400ページ程度で纏めたらもっと良い作品になってた気がする。それか、ボクシング
の試合のシーンを減らして、もっと個々のキャラクターの内面描写や恋愛パートを深く掘り下げるか。
どうも、そういった心理描写があまり描かれないので、薄っぺらい印象を受けてしまった。

ただ、鏑矢・木樽、二人の友情部分は良かったです。普通、こういう関係になったら相手にもっと
嫉妬心とかのマイナスの感情を抱えてしまうと思うのですが、この二人の友情は最初から最後まで
崩れず、相手を思いやるお互いの心に胸がジーンとしました。特に終盤の鏑矢の木樽への献身ぶり
には胸を打たれたなぁ。最初鏑矢は全然いい印象がなかったのだけど、中盤以降かなり印象が
変わりました。負けを経験し、挫折を味わうとやっぱり人って成長するんですねぇ。もちろん、
一番の原因は丸野さんの出来事だとは思いますが。彼女に関してはある程度は予想していた
のだけど、やっぱりショックは大きかったです。彼女と鏑矢のやりとりはとっても微笑ましくて
好きでした。その辺りももっと書いて欲しかったな。

二人の少年のキャラは良かったのですが、もう一人の主要人物である耀子のキャラは最後まで
あまり好きになれませんでした。彼女の内面描写もいまひとつ共感出来るものではなかったし。
木樽の告白への態度も酷すぎ。木樽もなんでショック受けないんだ?とかなり不自然さを感じ
ました。あと、エピローグも個人的には蛇足に感じました。あそこまで書く必要はなかったんじゃ
ないかなぁ。直前の鏑矢の試合で熱くなっていただけに、少し興ざめになってしまった気がします。
耀子の苗字が変わっていた説明もなかったし。そりゃ、結婚以外に考えられないけどさぁ。

ボクシングに興味がなくても楽しめるとは思いますが、知っていた方が入りやすいかもしれません。
あしたのジョー』なんかに胸を熱くしたことがある人にはおススメかな。
鏑矢、木樽、二人の少年どちらも魅力的です。敢えていうなら私は鏑矢派かなぁ。途中までは
断然木樽君だったんだけどね・・・。

個人的には小説よりも映像やマンガにした方がはまりそうな話だと思いました(その方が試合の
イメージが掴めると思うから)。文章や全体の冗長さに引っかかって少々辛めの評価になりましたが、
その辺りに目をつぶれば面白いのは間違いないです。

ちなみに『ボックス!』とは『ボクシングをする』という意味の動詞で、ボクシングの試合を
開始する時の掛け声にも使われるのだそう。ボクシングとか全く興味なかったから全然知りません
でした^^;;