千早茜さんの「魚神」。
生ぬるい水に囲まれた孤島。ここにはかつて、政府によって造られた一大遊廓があった。捨て子の
姉弟、白亜とスケキヨ。白亜は廓に売られ、スケキヨは薬売りとして暗躍している。美貌の姉弟の
たましいは、惹きあい、そして避けあう。ふたりが再び寄り添うとき、島にも変化が…。第21回
小説すばる新人賞受賞作(あらすじ抜粋)。
あらすじ抜粋ですみません。実は昨日記事を書こうとして途中でまたしても全部消失。体調不良
もあり、諦めました。パソコンが新しくなっても使う人間が馬鹿なのでどうしようもありません^^;
体調、今日は大分良くなりました。何だったんだろ。夏バテだったのかな。じめじめしてるし。
暑いし。夏キライ(T_T)。
巷で大絶賛を浴びているらしい本書。内容見て自分好みそうだったので手に取ってみました。
いやいや。これはかなりツボにきました。ねっとりと絡みつくような遊郭の世界を描きながらも、
どこか儚く、美しい耽美な独特の世界観にどっぷりはまりました。主役である白亜とスケキヨ、
二人の美しい姉弟のなんとも云えない距離感がいい。お互いに想い合いながらも、離れ離れになら
ざるを得なかった二人。お互いだけがいればそれで幸せだった幼い頃の二人は、ある日を境に
心も身体も離れ離れになり、それぞれ別の生き方を余議なくされます。離れてからは白亜サイド
の物語がメインになり、スケキヨがどうなったのかは噂でしか伺い知れない。そして、噂の
中のスケキヨはどんどん人が変わったようになって行く。彼の真意や本当の姿は、終盤に
なるまでわかりません。スケキヨは本当に恐ろしい人間に変貌してしまったのか?二人が一体
いつ再会するのか、どきどきしながら読み進めて行きました。
一方の白亜は、スケキヨと離されてからは女郎として身体を売るだけの日々が始まります。彼女は
非常に美しい容姿をしているので、いくらでも上客がつきます。そんな彼女の前に現れたのが
尖った顎に鋭い視線、刃物で削ったような鼻筋の、『剃刀男』こと蓮沼。この蓮沼と白亜の
微妙な関係がなんとも隠微で良いのです。剃刀男が出てきてから物語もぐっと面白くなり、
名前しか出て来ないスケキヨの存在がすっかり薄れてしまった感じはしましたが^^;ただ、
剃刀男に惹かれながらも、やはり白亜の心の中にはずっとスケキヨがいた。表面上では諦めたふりを
していても。白亜の切ない想いが行間から伝わってきて、胸が苦しくなりました。女郎の仕事に身を
やつしながらも、いつでも凛として自分を見失わず、清冽な美しさを放つ白亜のキャラが非常に
良かったです。
ぬめりとした水の中に隔絶された遊郭の島や、この島に伝わる雷魚と白亜の伝説といった設定も
効いていました。
文章は基本的には巧いと思うのですが、所々引っ掛かる個所もあり、新人らしい瑕疵がない訳
ではありません。ただ、この辺りは書き慣れてくればもっともっと良くなって行くでしょうね。
260ページ程度のさほど長い本ではないのに、非常に密度の濃い物語。匂い立つような色気の
ある文章と世界観に引き込まれました。幻想的で退廃的で、耽美な世界がお好きな方には是非
おススメしたい作品。
ただ、『スケキヨ』のネーミングセンスだけは、なんとかして欲しかった。だって、どうしたって
『犬神家』を思い出しちゃうじゃない。ちょっとそこだけ耽美さが薄れて、あの白いお面を
思いだしちゃって、興ざめに感じてしまったので・・・。せめて、漢字当てるとかさぁ。
スケキヨって言われれば、犬神家・・・って、誰もが想像すると思うんだけど、ねぇ。
ちなみにタイトルは『魚神』と書いて『いおがみ』と読みます。島に伝わる大魚、『雷魚』
からでしょうね。健気で可哀想な雷魚の物語も好きでした。