ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

初野晴/「トワイライト★ミュージアム」/講談社ノベルス刊

初野晴さんの「トワイライト★ミュージアム」。

児童養護施設で育った天涯孤独の少年・勇介の前に、ある日自分を引き取りたいと言う大伯父が
現れた。施設から出られることに喜ぶ勇介だったが、施設を出て三日後、大伯父が事故で急逝
してしまう。正式な養子縁組を交わしていなかった勇介は途方に暮れるが、大伯父は彼にある
遺産を遺してくれていた。それは、古今東西の美術品が集められた不思議な博物館だった。
施設で仲良くしていた少女ナナの事故をきっかけに、勇介は博物館の秘密のプロジェクトの
存在を知る。幼い命を救うため、勇介は学芸員枇杷と供に中世のヨーロッパに時間旅行
することに――タイムトラベル・ミステリー。


買わなきゃダメかなぁと思っていたところ、隣町の図書館の本日返却コーナーで発見。ラッキー
でした^^今年に入って大注目作家に躍り出た初野さん。本書は、以前に読んだアンソロジー
「忍び寄る闇の奇譚 メフィスト道場①]」に収録された同名短編を長編化させたもの。読んだ時、
短編だとせっかくの設定が生かし切れてないような印象があったので長編で読みたいと思っていた
ので、長編化されて嬉しいです。ただ、長編になったものの、終盤の駆け足でちょっと食い足りない
印象は変わりませんでした。脳死状態の人間の意識は過去に時間旅行している、という設定自体、
少々強引で説得力がないような印象もあるのですが、その辺はあまり突っ込まないで読むべき
作品なのでしょうね。何作か読んだ限りの印象ですが、初野さんは脳死植物状態なんかで病床
にいる人物を描くのがお好きみたいですね。『水の時計』も『1/2の騎士』もそうでしたし。
医療とファンタジーとミステリの融合という合わせ技でそれを読ませる作品に仕立てあげるのは
やはりお上手ですね。脳死状態になってしまった少女・ナナが意識を飛ばすのが中世の魔女裁判
の場面というのは、あまりにも幼い少女にとっては過酷な状況で、一人の少年に憑依(?)した
枇杷の運命共々、読んでいるのが辛かったです。なぜ彼女がその時代に行かなければならなかった
のか、という部分までできれば説明して欲しかった気はするのですが。ただ単に、ランダムに
選ばれただけなのかもしれませんが。

正直、マシュー・ホプキンスが使った魔術の真相に関しては読んでも全くピンとこなかったです^^;;
本当に、ものすごい訓練を積んで覚えたのでなければ到底出来そうにない○○方法だと思うのですが
・・・。ミステリとしてはちょっと説得力がなかったように感じました(多分、私が馬鹿なせいも
あると思うけど^^;)。勇介が過去と現代を行ったり来たりするので、つい『王家の紋章』の
ヒロイン、キャロルを思い出してしまいました(わかる人だけわかってください^^;)。

そして、やはりラストの収束の付け方はちょっとあっけない。せっかく勇介や枇杷のキャラは
いいのだから、二人(とナナ)が現代に帰ってからの『その後』まで書いて欲しかった。タイム
トラベルの部分より、そちらの方をもう少し書きこんでくれれば、もっと泣ける話になった
ような気がするのですが。その辺は、もしかしたらシリーズ化を念頭に置いてるのかな。
枇杷自身のこともほとんど書かれておらず、謎だらけなので。枇杷と姉の過去の事件のことも
あるし、やっぱりこれは続編が書かれると思いたい。

個人的には大伯父さんと勇介がどんな生活をするのかもっと読んでみたかった。なぜたった
三日で死んでしまったのか、大伯父さんよ・・・。なんだか、とっても面白い人柄っぽいので、
ただただ残念です。大伯父さんんが生きてれば、クールな勇介も、もっとやわらかい人間になって
行ったかもしれないのにな。まぁ、これからは枇杷がその代わりなのかもしれませんけど。
勇介はちょっと、14歳にしては達観しすぎだし、知識ありすぎって感じもしましたが、それだけ
過酷な人生を歩んで来たってことなんでしょうね。彼と枇杷がこれから博物館と関わりながら
どう生きていくのか、とても気になります。二人が恋愛関係に発展するのかどうかも(年齢は
少々離れているけど^^;)。続編、やっぱり出て欲しいですね。

終盤のあっけなさで少々食い足りなさもありましたが、やはりこの人の描きだす世界観は非常に
好み。今後も要注目です。