ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中田永一/「百瀬、こっちを向いて。」/祥伝社刊

中田永一さんの「百瀬、こっちを向いて。」。

学校中の人気者・宮崎先輩は美人でお金持ちのお嬢様の神林先輩と付き合っている。しかし、その
裏で後輩の百瀬陽とも付き合っている。しかし、最近神林先輩が宮崎先輩と百瀬との仲を疑って
いるらしい。そこで、宮崎先輩は幼い頃から弟のような存在だった僕に白羽の矢を立てた。僕に、
百瀬としばらく付き合っているふりをして、神林先輩を安心させて欲しいというのだ。クラスで
最も人間レベルの低い僕に、偽りとはいえ彼女が出来た!美少女で性格もはっきりしている百瀬
を前に、女の子と付き合ったことのない僕は戸惑うばかり。百瀬は二股をかけられていることを
割り切っているみたいに見えた。しかし、彼女の本心は――(「百瀬、こっちを向いて。」)。
みずみずしい感性が迸る、珠玉の恋愛短編集。


巷で、Oのつく某作家の変名との噂が飛び交っている中田永一さん。本書を読んで、ほぼ
間違いないだろうな、と感じました。どの作品の主人公も『クラスから孤立した存在』であり、
周りと巧く折り合えず孤独を感じているマイノリティーなキャラ造形は、まさしく作家Oの
作り出すキャラクターにぴたりとはまります。そして、本書を読んで、以前に読んだ山白朝子
さんもまた、作家Oの変名だろうと確信しました。だって、たき火出てきたもん!しかも、
二回も!もし、こちらの作品を先に読んでいたら、山白さんのことも一発でわかったのになぁ。
たき火にこだわる作家なんてそんなにいるもんかい。

本書は、恋愛をテーマにした短編4作が収録されています。ストーリーはどれも割とオーソドックス
で、先の展開も読めてしまうものばかりでしたが、その王道な感じが私は結構好きでした。恋愛
がテーマといっても、べたべたせずにさらりと描かれているのでとても爽やか。十代の恋ならでは
の、みずみずしいとも青臭いとも言うべき感情がなんともこそばゆい感じではありましたけれど^^;
恋愛小説は基本的には苦手なのですが、これくらいのライトさなら読みやすいし入りやすい。
ただ、読みやすいだけに記憶に残るような重みが感じられず、そこにもう一つ巧さがプラスされて
いたら良かったなぁと思いました。あと一歩、何か物足りなさを感じて物語が閉じてしまう作品が
多かったです。



以下、各作品の感想。

『百瀬、こっちを向いて』
これはそもそも二股をかけている宮崎先輩の行為が許しがたく、いまひとつ乗り切れなかった面が
ありました。いくらスポーツ万能でかっこよくて何でも出来たって、利害で人と付き合い、二股
をかけるような人間は最低だと思います。百瀬と主人公の関係が少しづつ変わって行くところは
良かったですけどね。私もマイナス思考で人間レベル低いから、主人公には共感できました。

『なみうちぎわ』
ベタな少女マンガのような設定ですが、こういうのは結構ツボにきます(少女マンガ好き)。
長く意識が目覚めなかった人間が5年ぶりに目が覚めてこんなにすぐ普通の生活が出来るとは
思えなかったけど、そこは多分突っ込んじゃいけないとこだよね・・・。終盤はちょっぴり
ミステリ的な要素もあり、なかなか楽しめました。あまりのベタさに笑っちゃうような設定
だけど、ラストはハッピーエンドで爽やかでした。

『キャベツ畑に彼の声』
『声』をキーポイントにする辺りにOさんとの共通点を感じます。ひとつ前の『なみうちぎわ』が
作中作のような扱いになっていて、リンクしているのが面白い。覆面作家をテーマに取り上げる
ことで、これを書いている中田永一覆面作家ですよ、と暗に仄めかしたかったのかな、とか
ちょっぴり深読みしてみたりして。

『小梅が通る』
これは一番好きでした。小梅(柚木)と山本の関係が変わって行くのが良かったです。人から
嫌われないように不細工メイクをする美人、という設定が面白かった。まぁ、普通ではありえない
だろうけど・・・。美少女なのに性格も趣味も地味な柚木のキャラが好きでした。ラストは
これまたベタすぎる展開だったけど、こういうの大好き。それにしても、山本、どこまで君は
鈍感なんだ・・・とツッコミを入れたくなりました。あそこまで言われたら気付くだろう・・・。
天然すぎるお人よしの山本君のキャラもツボでした。



山白さん程のツボ感はなかったのだけど、なかなか楽しめる短編集でした。これからもこの名前で
出す予定はあるのかなぁ?元の名前で出る作品の予定はないのだろうか・・・。変名の方より、
そろそろ本来の名前で作品出して下さい(って、もう、勝手に変名って決めてるし^^;もし
違ってたらゴメンナサイ、Oさん)。