ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「Story Seller」/新潮文庫刊

「Story Seller」。

7人の作家による書き下ろし短編集。2008年4月刊行の雑誌『小説新潮五月号別冊「Story
Seller」』に収録された7作の短編を収録。寄稿作家:伊坂幸太郎近藤史恵有川浩
佐藤友哉本多孝好道尾秀介米澤穂信


2月に予約してようやく回ってきました。大変巷の評判がよろしいらしいアンソロジー。寄稿作家
の名前を見ただけでも、こりゃ、期待が持てそうだぞ、と思いましたが、事実、期待通りの水準
の高いアンソロジーでした。佐藤さんだけはデビュー作で手痛い目に遭っていたので、久しぶり
に読むとどうなのかちょっと不安でしたが、他の作家は基本的には好きな作家ばかりなので
安心して読めました。佐藤さんの結果については各作品の短評で後述します。これだけ今を
ときめく作家を集めるのは大変だっただろうなぁと思うので、編集者の努力に拍手、ですね。


では、各短編の感想を。

伊坂幸太郎『首折り男の周辺』
いくつもの要素がラストに向けて繋がって行く辺りは伊坂さんお得意の構成。少々ご都合主義的な
展開なのは否めませんが、ラストも含めてやっぱり巧いですね。凶悪な男と気弱な男、同じ顔
なのに対象的な二人のキャラ、どちらも味があって良かったです。

近藤史恵プロトンの中の孤独』
サクリファイス』の前日譚。本編を読んでないとロードレースの部分はちょっとわかりづらい
かも(本編の時でさえなかなか入りこめなかったので^^;)。石尾と赤城の出会いが描かれます。
天才肌の人というのは周りと衝突を起こすものなんですねぇ。でも、ラストの石尾の、自分よりも
チームを優先させた行為に、未来(本編)の彼の姿が重なりました。この時から、この競技における
アシストの意味がわかっていたのでしょうね。

有川浩『Story Seller』
雑誌の特集タイトルをそのままタイトルつける程、作者も編集部側もこの作品がこの雑誌の『顔』
になる自信があったのでしょうね。いつもの有川さんの作風とは少し違って、シビアで残酷な
ストーリー展開に、途中読むのが辛くなったのですが、ラストは切なく、彼と彼女、どちらの
言葉もシンプルなだけに心に沁みました。たった一つ、伝えたかった想い。もっと早く、お互いに
伝え合って欲しかったです。いつもと違う着地点でしたが、読後に余韻が残る良作でした。

米澤穂信『玉野五十鈴の誉れ』
儚い羊たちの祝宴』にて既読でしたが、今回再読してみて、やっぱり巧いなぁと感心させられました。
前回読んだ時はラストの黒さと五十鈴の残酷さばかりが印象に残っていたのだけど、今回は
五十鈴のラストの行動の裏に隠された純香への想いの方が印象に残りました。ただ、純香があそこ
まで死に瀕するまで衰弱する前に五十鈴ならばもっとなんとか出来たのでは、と思えるだけに、
ギリギリまで手を施さなかった五十鈴はやっぱり残酷な人なんだろうな。

佐藤友哉『333のテッペン』
一番心配していた佐藤作品。デビュー作はその文章の酷さに壁に投げつけたくなったので、どこまで
文章が良くなっているのか楽しみでした。文章自体は確かに良くはなっているようですが、正直
やっぱり私はこの人の作品、肌に合わないなぁと再認識させられました。文章もキャラもいまひとつ
魅力が感じられず、乗り切れなかった。でも、もっと不満だったのはラストの謎解き部分。探偵の
謎解きとは違う真実があるならば、そこまできちんと書くべきです。一応の解決を見せて、それは
表向きだけで実はもっとすごい真相が隠されているんだと仄めかしながら、そこを読者の想像に
ゆだねるなんて、ミステリ作家としての逃げなのでは?主人公の正体も含め、消化不良な部分が
多く、短編としての出来には首を傾げてしまいました(黒べ)。すみません・・・。

道尾秀介『光の箱』
これは一番好きでした。当然の如くにまたしてもまんまと仕掛けに引っ掛かり、悔しい半面、
騙されてこそ、爽快だと思える作品でした。『ソロモンの犬』を読んだ時の読後感と似てるかな。
途中、最悪の展開を想像していたので・・・。今回も、いつもの道尾さんの手法を踏襲している
のだから気付けても良さそうなものなのに、なんで毎回毎回素直に騙されちゃうのかなぁ。単純
すぎるのかな^^;途中の暗さから想像もできないくらい、ラストは爽やかに読み終えられて
満足でした。短編でもその巧さが少しも損なわれないところが、道尾さんのすごさですね。

本多孝好『ここじゃない場所』
これもなかなか良かったですね。ヒロインのそっけないキャラは結構好きだったのですが、ラスト
でみんなが引くあのセリフには、私もどん引きでした。そりゃ、自業自得だわ、と思いました・・・。
秋山をめぐる謎の集団(?)は一体何だったんでしょう。他にも出て来る作品あるのかな。いかにも
スピンオフな感じの作品だったけど。ちゃんとした『彼らのケース』を描いた作品が読んでみたい
です。ただ、秋山の能力は、普通に超能力にしちゃって良かったんじゃないの?どうも、説明に
無理があるように感じました^^;



個人的に好きな順は、道尾、米澤、有川、本多、近藤、伊坂、佐藤、かな。
読み応えたっぷりの豪華なアンソロジーでした。満足。
vol.2はあと三人待ち。楽しみ、楽しみ。