ミステリ読書録

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白石かおる/「僕と『彼女』の首なし死体」/角川書店刊

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白石かおるさんの「ぼくと『彼女』の首なし死体」。

午前六時の渋谷・ハチ公像前。僕はコンビニの袋に入れた彼女の生首をそっと台座の上へ置いた。
そう、これがその日を境に世間を騒がせる<ハチ公像前、女性の生首置き去り事件>の幕開き
だった――第29回横溝正史ミステリ大賞優秀賞受賞作。


雪冤の記事でも書きましたが、今回の横溝賞受賞作品二作のうち、書店で見かけてまず
読みたい!と思ったのはこちらの作品でした。乙一さんのようなタイトルと、ラノベ調の表紙絵に
一目で惹かれました(この表紙イラスト、漫画家の高河ゆんさんの絵かと思ったら全然違うの
ですね^^;夢花季さんとおっしゃる方だそうです。初めて聞いた~。漫画家さんなのかな?)

書きだしから衝撃的で、これは面白そう!とワクワクしながら読み始めたのですが・・・
むむー。面白くなかった訳ではないのだけど、はっきり云って、インパクトがあったのは
そこまで。その衝撃的な出だしからどういう世界が広がって行くのか期待していたのに、
酷く凡庸な展開と、意外性のない結末が待っていただけでした。本書のキモとなるのは、
一番に『なぜ白石かおるは渋谷ハチ公前に生首を置いたのか?』というホワイダニット
の部分だと思うのですが、その真相にはガッカリ。主人公は何を考えているかわからない掴み所
のないキャラではあったけど、理知的で冷静な人間なのだと思っていたから、この真相の
発想の幼稚さには呆れました。子供の発想としか思えない。あんなリスクを冒してまで
生首を置かなくても、普通に死体を遺棄すれば同じ結果になったんじゃないの?どのみち、
首が発見されても彼の目的の成果は得られなかった訳だし。かえって、首だけにしたことで
遠回りをしてしまったように思えてなりませんでした。

生首を渋谷に置くという猟奇的行為を行った後なのに、主人公が普通に会社に行き、仕事を
続ける姿が延々と淡々と描かれるので、何を考えているかわからない主人公に対する不気味さが
ずっと付きまとっていて、なんだかモヤモヤとした不快感を覚えながら読んでました。選評委員
小池真理子氏程の嫌悪感はなかったのですが。でも、やっぱり主人公に好感は持てなかった
ですね。真相を読んで少し見方は変わったのですが。それにしても、ミステリの真相のお粗末さ
にはがっかりでした。『彼女』が待っていた『相手』の正体なんて、想像したそのまんまだった
ので。そこでもうひとひねり、意外性のある人物であったらもう少し評価は上がっていたかも
しれません。

それに、文章もアラだらけ。そこが味があると評価されたのかもしれませんが、私には稚拙
としか感じられなかったです。書き慣れたらもう少し違うのかもしれませんが・・・新人
ならではの感性とか勢いみたいなものは所々感じられるところもあったのですが。
『雪冤』とは真逆の、こういうラノベ調の軽い作風が対抗馬になったというのは肯けるものも
あるのですが、両者の完成度の差にはかなりの開きがあるように感じました。まぁ、個人的
好みもあるとは思いますが。
キャラ読み出来る程にキャラに萌えられないのも致命的かも。かおる君がもう少し早く本性を
明かしていれば、いっそキャラ読み小説として確立できたかもしれませんが・・・。いつきの
キャラはうざいしムカつくだけだったし。野田だけはいいヤツで結構気に入りましたけど。
そういえば、作者の白石さん、受賞の時は全く違うPN(福田正雄さん)だったのに、単行本化に
当たってPNを作中の主人公・白石かおるに変えているんですよね。これは誰かのアドバイス
だったんでしょうか・・・。このキャラで二作目を考えていたりするのかな。

書きだしとかタイトルの発想を内容でも発揮できれば、案外大成する作家に化ける可能性も
ありそうですが、今のままだと一発屋になりかねないかも。
期待が大きかった分、ちょっと肩すかしな印象を受けてしまい、評価も厳しめになりました。
すみません。


ってな訳で、結論としては、個人的には圧倒的に『雪冤』に軍配を上げます。やはり、私は綾辻
さん推薦の作品と相性が良い。乙一さんも道尾さんも、綾辻さん推薦に惹かれて手に取ったのが
始まりだったんですよね。これからもついて行こうっと。