ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三木笙子/「人魚は空に還る」/東京創元社刊

イメージ 1

三木笙子さんの「人魚は空に還る」。

明治の帝都。里見高広が記者として勤める零細雑誌社『至楽社』の元へ、「尋ね人の記事を載せて
欲しい」と一人の少女がやってきた。兄が一週間前から連絡もないまま家に帰って来ないという。
彼女の兄は、広告図案で一等になったことで、最近新聞に載ったばかりだった。高広は編集長の
命令で彼女の兄を捜す手伝いをすることに。彼女の兄はいなくなる前に写生帳に何枚も銀座の絵
を描き残していた。彼の描いた場所を特定する為、高広は自身が大ファンである帝都一の天才絵師・
有村礼のもとを訪ねる。礼は、以前銀座中の絵を描いて回ったことがあり、一度見たものは忘れ
ないという特技を持っていた。礼はあっさり写生の場所を言い当てて行くが、中に銀座ではない
場所が描かれている絵があった。二人は早速その場所に行ってみることに――心優しき雑誌記者
と、美貌の天才絵師、二人の青年の活躍と友情を描いた、心温まる帝都探偵物語譚。ミステリ
フロンティアシリーズ。


開架で見かけて、カバー折り返しのあらすじ読んで絶対好みだと思って手に取りました。だって、
『心優しき雑誌記者と超絶美形の天才絵師、ふたりの青年が贈る帝都探偵物語なんて
書かれたら、読まずには過ごせないでしょう・・・あれ、私だけ?^^;口は悪いけど超美形の
青年と、お人よしで心優しい青年のコンビというと、藤木稟さんの朱雀シリーズあたりを思い出す
のですが、本書では二人の役割がちょっと違っています。だいたい、この手のキャラ造形の
場合、口が悪い方が探偵役を引き受けると思うのですが、この作品ではお人よしの高広の方が
探偵役で、礼は彼の探偵活動を補佐するワトソン役になっています。これはこれで新鮮味があって
面白かったのですが、礼をワトソン役にしたことで、彼のキャラが少しぼやけてしまった感が
あるのは残念でした。口が悪い美形はやっぱり探偵役の方がキャラが立って良い気がするんです
けどね。

でも、うん、この二人の友情関係はベタだけどすごく良かったです。まぁ、どう考えてもBL
狙ってるようにしか思えないところもありましたけど・・・この表紙だし^^;しかも、この
表紙イラストの方、三浦しをんさんのまほろ駅前多田便利軒』の表紙絵描いた方だそうで。
もしかしてその方面で有名な方だったりするのかな・・・??

ミステリとしてはかなりゆるいです。っていうか、ミステリとも思えないような作品もありました
し^^;でも、それぞれの結末は心温まるものが多く、読後感はなかなか良かったです。
ミステリらしいミステリを期待していると裏切られると思いますが、私はキャラや結末の決着
の付け方が好みだったので、かなり楽しめました。

話としては二話目の『真珠生成』と表題作が好き。『真珠~』は、ラストの姉の凛とした態度
と彼女の潔さが清々しい。黙っていれば、そのままの暮らしが続けられた筈なのに。そこで弟に
敢えて楽な道を取らせない、彼女の人としての正しさに、こちらまで身が引き締まる思いがしました。
表題作の『人魚は空に還る』は、観覧車の上で泡と消えた人魚という謎の美しさと、その
からくりの裏に隠された人情話の温かさが相まってとても良かったです。トリック自体は
どうということもない子供騙しみたいなものではあるのですが^^;そして、小川さんの正体に
びっくり。まさか実在した小説家だったとは。っていうか、私、この方女性だとばっかり思って
ました。しかも、名前の読み方も勘違いしてました・・・。読んだことはないのですが、人魚が
タイトルに入っているこの方のある作品が、以前から開架で見かける度に気になっていたのです。
多分、その作品のヒントになったエピソードという位置づけで書かれた作品なのでしょうね。
ラストの『怪盗ロータスも、ロータスのキャラが明治版ねずみ小僧みたいで好きでした。
ラスト、ちょっと意味がよくわからない文があったのですが・・・^^;
全体的に、文章は所々ひっかかるところはありました。説明が飛んで意味がわからないような
一文があったりとか。基本的には読みやすいし、そこまで大きな瑕疵という訳でもないのですが。


明治のレトロ感溢れる時代設定も良かったですね。ミステリというよりは、キャラ読み小説として
なかなかツボをつかれた作品でした。続篇があるなら是非追いかけたいと思います。