ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

柳広司/「ダブル・ジョーカー」/角川書店刊

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柳広司さんの「ダブル・ジョーカー」。

帝国日本陸軍内に極秘に設立された秘密諜報員養成所‘D機関’。発案者である結城が一人で
立ち上げたこのスパイ組織は、『死ぬな』『殺すな』をモットーとする時点で陸軍内の異分子
と見なされていたが、数々の成果をあたことで、陸軍幹部たちの間でもその存在を認められつつ
あった。しかし、陸軍参謀本部から極秘に呼び出しを受けた風戸陸軍中佐は、‘D機関’の存在
を知らされ、自らが陸大在学中から温めてきた陸軍独自の諜報機関設立に乗り出した。一年後、
‘D機関’の考え方とは逆に、風戸が設立した『躊躇なく殺せ』『潔く死ね』をモットーに掲げる
通称‘風機関’は、ついに‘D機関’を出し抜く作戦に出た――(「ダブル・ジョーカー」)。
クールでスタイリッシュなスパイミステリ、待望の第二弾。


柳さんを一気に人気作家にのしあげた前作ジョーカー・ゲームの続編。今回も期待に違わぬ
面白さでした。ただ、全体的に前作より政治色や戦争色が強くなったせいか、単純にエンタメ的な
面白さで読ませた前作とは少し趣が異なる作品になっているように感じました。一作一作の完成度
の高さはさすがです。表題作の『ダブル・ジョーカー』は、‘D機関’とは相反する理念で設立された
陸軍出だけで構成される秘密諜報員養成所、通称‘風機関’との対立が見ものです。結城を目の
敵にし、‘D機関’を失墜させようと企む風戸の思惑を前に結城はどう出るのか。といっても、結城
サイドの動きは全く語られません。この作品に限ったことではなく、今回直截的に‘D機関’の
メンバーからの視点で語られる作品はラストの『ブラック・バード』だけで、他は‘D機関’以外の
他人からの視点から物語が進んで行く為、‘D機関’の活動は最後になるまで表面に出て来ません。
それだけに、ラストで明らかにされる‘D機関’の諜報活動計画の綿密さ、周到さに圧倒され、彼らの
優秀さがより浮き彫りにされているように感じました。こういうところはやっぱり巧いなぁ、柳さん。
『蠅の王』は、のっけから漫才のシーンで始まって、面食らいました。一体、いつ‘D機関’が出て
くるのかと思っていたら・・・こうきたか!って感じでした。なんちゅー遠まわしな教え方なんだ^^;
でも、その『仄めかし』でからくりに気付いた脇坂がすごい。
仏印作戦』は、ベトナムに行ったことがあるので、現地の様子はなんとなく思い描くことができ
ました(食べ物とかアオザイをきた女性のこととか)。ただ、ハノイは行ってませんけど^^;
てっきり、あの人物がD機関のメンバーだと思い込んで読んでいたので、終盤の展開には驚き
ました。そして、ラストで思わぬ伏兵がメンバーだった(らしい)と知って二重に驚かされました。
『柩』は、とにかく結城の過去の武勇伝(?笑)に圧倒されました。やはり、彼はタダモノでは
なかったことを思い知らされた気がしました。最後の最後まで徹底して‘D機関’の任務に忠実
だった牧。おそらく、列車事故とは云え、『死ぬな』の精神に屈したことは無念だったろうと思う。
結城は最後までクールを押し通して葬儀には現れなかったけれど、目を閉じさせた時にすでに
弔意を告げていたからでしょうね。何より無念だったのは結城だったのかもしれません。
『ブラック・バード』も傑作です。‘D機関’の徹底した諜報活動には目を瞠るしかありません。
でも、異国の地で結婚して子供まで儲けて、任務が完了したら姿を消す、というのは、残された
人間のことを考えるとちょっとやるせなくなります。まぁ、それ位用意周到にしないと、騙し、騙されの
世界では足元をすくわれてしまうのかもしれませんけれど・・・。仲根が犯したミスは、‘D機関’の
人間としては致命的でしたが、彼の目を眩ませたものは、彼の人間性を感じさせるものでした。
ラストの展開は、‘D機関’の考え方を根底から覆すものでしたが、この事態に結城やメンバーたちは
どう立ち向かうのか。
それでも、彼らは結城が叩き込んだ『死ぬな』『殺されるな』の精神を貫いて欲しいと思う。

今回もクールでスタイリッシュな‘D機関’のメンバーたちの活躍に酔い痴れました。なんといっても、
やっぱり結城中佐がかっこいい~~!一切の感情も人となりも出て来ないのに、これだけ魅力を
感じさせるってのはすごいです。
更なる続編を期待したいシリーズです。相変わらず装丁もかっこいいですね。でも、誰だろ、これ。
手袋してないから結城じゃないんだろうなー。