ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

辻村深月/「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」/講談社刊

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辻村深月さんの「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」。

結婚して東京でフリーライターとして働く神宮寺みずほ。地元に残って契約社員として地道に
働いていたOLの望月チエミ。30歳を過ぎて、幼馴染の二人の人生は交わることなく、別々の道を
歩んでいた。しかし、ある日、チエミの家で起きた殺人事件を機に、みずほはチエミと関わりの
あった人々の元を訪ね、会わなくなっていた間のチエミの人生を辿り始めた。姿を消したチエミを
捜しだす為に――。


辻村さん新刊です。30歳を過ぎた女性たちが中心となって話は進んで行きます。系統としては
太陽の坐る場所に近いでしょうか。それぞれの登場人物の心理描写が巧みで、リアルだからこそ
読んでいるのがしんどい。ぐいぐい読まされて結局は一気読みだったのですが、マイナスの感情
が延々と続いて行くので、途中かなり気が滅入りました。特に、チエミと付き合っていた大地と、
チエミの後輩亜理紗の考え方にはほんとに腹が立って、気分が悪かったです。特に大地は救い
ようのない男って感じ。確か凍りのくじらのヒロインが付き合ってた男も酷い男だった覚えが
あるんだけど、それに匹敵する位典型的な最低男だと思う(最低の部類は違うけど)。東野さん
じゃないけど、辻村さんも過去の恋愛で痛い目に遭ってたりするんじゃないかと勘繰りたく
なっちゃうなぁ^^;
でも、それ以上に女性の心理描写がいちいちリアルで、胸に突き刺さってきます。会わなくなった
昔の友達との距離感とか、成功している友達に対する妬みや羨望、自分だけ取り残されたような
孤独感や焦燥感。どれも、女性だったらきっと身に覚えがあるだろうと思える感情がこれでもか、
と描かれるので、共感したくない負の感情でも共感せざるを得ないという感じ。結局、自分の中に
ある嫌な感情を突き付けられているような気がして、妙な居心地の悪さを感じるんでしょうね。
そういう所はほんとに巧いなぁと思うんですが、巧いだけに、読んでて痛々しくて、きつかった。

ただ、今回のテーマは『母と子』だと思うのですが、チエミと母親の親密度を気にして指摘する
同級生の政美の心理はちょっとよくわからなかった。仲がいい親子なんて今普通にいるし、わざわざ
本人にそれを指摘するかなぁ?同じような指摘を後輩の亜理紗もしているけど、それで誰かに
迷惑かける訳じゃなし、わざわざ気まずい思いしてまで指摘する心理はちょっと理解できないなぁと
思いました。
私の友人にもちょっとチエミの家庭に似てる子がいるんですが、別に普通に仲良くていいなぁ
って思うし、嫌な感じとかしないけどな。親と異常に仲いいってそんなに変なのかなぁ。どっち
かっていうと、私はそのことを必要以上に気にする政美や亜理紗の方が異常に感じました。

ミステリとしての驚きはほとんどありませんが、チエミが逃げた真相や、タイトルに込められた
意味がわかるラストを読んで、胸がぎゅーっと押しつぶされそうな気持ちになりました。真相は
ただただ切なく、やるせない。読み終えて、苦く重苦しい思いが胸に残りました。それでも、
チエミにはみずほという、自分のことを想って、追いかけてきてくれる存在がいた。彼女が本当の
孤独ではなかったことに、ほんの少し救われた気持ちになりました。チエミ自身のことはそんなに
好感持てなかったけど、彼女の持つコンプレックスや孤独な気持は自分にも身に覚えのあるものだ
ったから。彼女にはもっと前を向いて歩いてほしいと思います。

29歳の辻村さんにしか描けないといのは、その通りだと思います。同じ年代だからこそ、ここまで
リアリティを持たせて書くことができるのでしょう。30歳というのは確かに節目の年で、
いろんなことを考えて、焦ったり不安になったりする年齢ですから。それ過ぎちゃうと、だんだん
達観してきちゃうんですけどね(苦笑)。辻村さんらしい、アラサー作品になったんじゃない
でしょうか。

ところで、表紙の真ん中(よりちょっと上)に浮き上がってる透明な水たまりみたいないびつな
楕円は一体何を意味しているのでしょうか。内容読んでもよくわかんなかったなぁ・・・
わかるひと、誰か教えてください。