ミステリ読書録

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西澤保彦/「身代わり」/幻冬舎刊

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西澤保彦さんの「身代わり」。

タックとタカチとウサコがいない八月。祐輔は、七月の終わりに起きた出来事を完全には把握
しないまでも、彼らの間に何がしかの精神的に疲弊する出来事があったのだろうと静観し、
相変わらず大学の気の置けない仲間たちとの飲み会に明け暮れていた。そんなある日の飲み会に
久しぶりに顔を出したソネヒロこと曾根崎洋。原因は不明だが、夏休みを過ぎた頃から
アパートで引きこもり状態になっていたらしいが、久しぶりに顔を見せたソネヒロは何かに
吹っ切れたように明るく前向きになっていた。しかし、そんなソネヒロが翌日女性を暴行した
末、返り討ちに遭って死んだという。前向きに吹っ切れたように明るくなっていたソネヒロが
なぜ――祐輔は、事件の真相を追い始める。一方、高校二年の鯉登あかりが自宅で殺害された。
そして、そのそばにはなぜか巡回中だった筈の明瀬巡査の遺体が――二人の死亡推定時刻は
4時間前後のズレがあった。ソネヒロと明瀬巡査。二つの死亡事件には驚くべき真相が隠されて
いた――『依存』から9年、ファン待望の安槻市シリーズ長編書き下ろし作。


ついに出ました。首をながーく、ながーくして待っていたタック&タカチシリーズ最新作。思えば
西澤作品に初めて出会ったのも姉が持っていたこのシリーズ第一作目にしてデビュー作の
『解体諸因』からでした。まだまだミステリにはまり始めたミステリ初心者の私にとって、
若竹七海さんの『ぼくのミステリな日常』と共に、連作短編という形式の小説はとにかく
新鮮で、驚きに満ちていました。
その時はシリーズものになるとは全く意識しておらず、タックやタカチのキャラにそんなに入れ
込んだりすることもなく、ただただ作品の構成の面白さに感心していただけだった気がします。
それから一作読むごとにシリーズやキャラに思い入れが増して行って、気がつけば新刊を
待ち望むシリーズになってました。『依存』を読んだ時は、タックの過去のあまりの重さに胸が
どよーんとしたものですが、これでタックやタカチの関係が動き出すんだろう、とこの先の展開
に思いを馳せ、シリーズ折り返しへの期待が高まったものです。が、出ない。待てども、待てども、
続きが出ない!途中で『黒の貴婦人』が出て以降、ぱったりとシリーズが止まってしまって、
その間に変なSFとか変なレズものとか、変な猟奇殺人ものとか、まぁそれなりに面白かった
けれども、でも、でも、ちがーう。タックシリーズはどうしたーー!と思いながら新作を手に取って
いた気がします。そんなわけで、本当に、本当に久しぶりにシリーズ新作が出た、その事実
だけでなんだか満足してしまった感じがなきにしもあらず。とにかく、タックだ、タカチだ、
ウサコだ、ボアン先輩だーーー!と、彼らが出てくるだけで嬉しくてにやけてる自分がいる
のでした。それなりにお付き合いが長い方は、私が個人的に思い入れのあるシリーズや
キャラには総体的に評価が甘くなることはもうご存知かと思います。というわけで、もう、
シリーズの長編が読めたってだけで、十分幸せなのでした。

とはいえ、内容的なこともちゃんと書かなきゃいけないですよね。まぁ、正直、ミステリとして
は、『依存』の後日談にしては小粒だったかなぁと言わざるを得ない。そもそも、オチが○○
殺人だった時点で少々拍子抜けした感じはありました。しかも、こんな状態での○○殺人
が、巧く行くはずはないと思うのですが・・・。動機の面も、納得がいかなかった。特に明瀬
巡査を殺した理由。ソネヒロサイドの方も、殺人を企てるほどに殺意が芽生えたことに疑問を
感じました。








以下、真相に触れています。未読の方はご注意を!










だってねぇ、いくら夫婦仲が冷戦状態だったからって、単に離婚すりゃいいんじゃないの?
なんでわざわざリスクを犯してまで殺す必要がある?保険金かけてたとかって事実も出て
来てないし。夫は暴力ふるった事実があるんだから、慰謝料は絶対ふんだくれるハズ。
それに、顔も見えない相手と殺人のやりとりするってのがどうも腑に落ちない。常与神社
で‘天狗吊り’参りをする為にくだんの木に近づく人は多いだろうし、そんな人が来る場所で
物騒なメモのやりとりなんてしたら、絶対そのうち誰かに気づかれちゃうのでは。現に刑事の
一人が木のウロに手を入れて確かめたりしてる訳だし。はしごがないと登れない場所にあるって
訳でもないのだから、好奇心のある人ならウロの中を確かめるってのは普通にありそうな気が
するのですが。まぁ、メモは一見殺人とは無縁そうな内容として書かれていたのかもしれませんが。
それでも、やっぱり、顔も見たことがない人と交換殺人の約束を交わすってのは、ちょっと
無理がありすぎるように感じました。











と、まぁ、ミステリの真相にはかなり不満があったのですが、『依存』で心身ともにボロボロに
なったタックが最後の最後で本領発揮して、本来の輝きを取り戻すかのように推理を開帳して
くれたのは嬉しかったです。これも事件の後でずっと、よりそうようにタックのそばにいて、彼を
見守ってきたタカチのおかげなんでしょうね。きっかけは佐伯が事件に二人を巻き込んだこと
かもしれないけれど、やっぱり、それだけじゃないと思う。二人の結びつきはより強くなって
いるように感じて、嬉しくなりました。それにしても、タカチの迫力がどんどん増して行くのが
なんとも・・・一体、彼女の存在感はどこまで強烈になって行くのか^^;だんだん、人間離れして
行ってませんか・・・。よ、妖怪?^^;

鯉登あかりの書いた『身代わり』の作中作が出て来なくてちょっとほっとしました。だって、
内容知って、またしても西澤さんのしょーもないエロ描写が出て来るのかーーとちょっとげんなり
していたので^^;
ほんとは書きたかったのかもしれないですけどねぇ・・・(苦笑)。

ボアン先輩だけは変わらずそのまんまでほっとしました。相変わらずめちゃくちゃな飲み方
してんなぁ。大学にこういう先輩いたら、楽しいだろうけど、絶対迷惑だ。「夏の名残を慈しむ日」
もなかなか傑作なイベントだとは思うけど、絶対付き合いたくないな・・・。

まぁ、とにかく、新作が読めただけでも、めでたい、めでたい。次は4人揃って事件を解決して
ほしいなぁ。4人でわいわい飲みながら過ごしているところが、なんだかんだで一番好きなのでね。


思い入れの分、記事も長くなっちゃったな~^^;毎度のことながら、コンパクトにまとめられず
すみません・・・。でも、なんか全然いろいろ書き逃してる気がするんだけど・・・まぁ、いっか。