ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小島達矢/「ベンハムの独楽」/新潮社刊

イメージ 1

小島達矢さんの「ベンハムの独楽」。

私は<まばたき>するともう一人の私の肉体に精神が移る。もう一人の双子の私、顔の半分に
痣のある醜い双子の姉<真紀>に。私<早紀>と姉の<真紀>は一卵性双生児として平凡な両親
から生を受けた。顔も体格もそっくりな二人だったが、ただ一つ普通の双子と違うのは、私たち
の間にはたった一つの魂しか与えられなかったことだ。明るくて人気者の<早紀>は、次第に
醜く嫌われ者の<真紀>を邪魔だと思うようになる――(「アニュージュアル・ジェミニ」)。
22歳の鬼才による9つの物語を収録。第5回新潮エンターテイメント大賞受賞作。


beckさんの記事で面白そうだと思って予約したら即行で回ってきました(笑)。9つの短編が
収録されています。beckさんの記事でも触れられていたのですが、各作品に微妙にちょこちょこと
前の作品からのリンクが出て来て、全体の作品世界が繋がっていることがわかります。ただ、
正直なところ、このリンクが作品に必要だったのかは非常に微妙。普通ならこういうリンクは
嬉しいと思うところなのですが、リンクのさせ方がものすごく微妙な為、それがあるから何?って
感じになってしまってます。これが最後にきれいに収束されるのであれば、高い評価に繋がった
と思うのですが・・・。作品によってリンクがあったりなかったりするのも、中途半端だし。
中途半端なリンクがあるが為に、余計に作品がバラバラな印象になってしまっているのが
残念。だったら、全くなくして、バラエティに富んだ短編集として読ませた方が良かったのでは
ないかなぁと思いました。普通ならこういうリンクがある作品は非常に好みなところなのですが、
この作品に関してはそれが裏目に出ているように感じてしまいました。

と、ここまで書いて、一読しただけでは意味がよくわからなかったラストの『クレイジー・タクシー』
の最後を読み返して、もう一度最初の『アニュージュアル・ジェミニ』に戻ってみたら・・・ああ、
そうだったのかー!!とやっと意味がわかりました^^;こうやって繋がっていたのか~(気付くの
遅すぎ^^;)。ただ、これをやる為だったとしても、やっぱり他のリンクが必要だったのかは
疑問を感じるところなのですが・・・。でも、最初と最後がきれいに繋がっているところは巧い
ですね。新人とは思えない技巧力を感じました(この構成、リレー小説『9の扉』を思い出しました)。
ただ、一作ごとに出来に少々ばらつきがあるので、全部が全部好みって感じでもなかったんです
よね^^;『アニュージュアル~』レベルの作品が続けばかなり完成度の高い短編集になった
ように思うのですが。『チョコレートチップ・シースター』や『コットンキャンディー』なんかは、
読後は爽やかなのだけど、それだけの話って感じであともうひとひねり欲しかった。個人的に
面白かったのは『ピーチ・フレーバー』。本を読んで味を感じるという設定がいい。本によって
美味しいものとまずいものがあるってのも面白かったです。この本だったらどういう味に
なるのかな?タイトルに美味しそうな単語が多いから、いろんな味がミックスされてそう(笑)。
私はやっぱり、どちらかというと黒いオチの作品の方が好みでした。

ラストの『クレイジー・タクシー』に出て来る女の正体に一番ビックリしたかな(笑)。ほんとに、
最初、二度の○○って、どういこと?って全然わかりませんでした・・・。どことどこがリンク
してるのかがわかりづらかったのが痛かった。前の話に出て来た登場人物の名前とか次の作品
読んでる間に忘れちゃうもの^^;この作品全体の、人間関係相関図が欲しいと思ってしまい
ました(いろんなところでいろんな人物が繋がってるので^^;)。

文章や発想なんかには才能の片鱗が感じられたので、今後も注目して行きたい作家さんに
なりそうです。とりあえず第二作に期待。