ミステリ読書録

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瀬尾まいこ/「僕の明日を照らして」/筑摩書房刊

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瀬尾まいこさんの「僕の明日を照らして」。

中二の僕、隼太は優ちゃんから虐待を受けている。優ちゃんは、歯科医師で僕の母親の再婚相手だ。
優ちゃんは、普段は優しいけど、スイッチが入ると僕を殴る。そして、僕に暴力を振るった後、
いつも自分のしたことを謝る。そして、そんな自分を責め、僕ら親子から離れようとするんだ。
僕はそんなの認めない。もう一人の孤独で恐い夜を過ごすのは嫌なんだ。僕には優ちゃんが必要だ。
僕と優ちゃんは、優ちゃんの虐待を鎮める方法を模索し始めた――。


久しぶりに瀬尾さんの新刊が出ました。一体いつ以来なんだろう?確か最後に読んだのは
エッセイだったんじゃないだろうか。その後に出たっけ?と記憶が曖昧になるくらい、久しぶり。
ということで、嬉々として手に取ったのだけれど。
うーん。非常に瀬尾さんらしい家族の物語、なのだろうけれど、今回はあまりにもリアリティが
なさすぎた。義理の父から虐待を受ける中学二年の少年の成長物語、なのですが。はっきり
云って、巷で問題になっているDVと比べて、こんなにゆるいDVなんて存在し得ないと思う。
虐待する側と虐待を受ける側が協力して虐待を阻止する方法を模索する、なんて、到底現実的
とは思えない。そんな風に協力出来る関係にあるんだったら、虐待なんて起こらないでしょうに。
義父の優ちゃんのキャラにブレがあるから、余計に不自然に感じるのかも。虐待のシーン自体も
それほど出て来ないし、普段の隼太との会話や、勤め先の歯科医院での働きぶりなどを見て
いると、とてもそんな性格破綻者には思えない。優しすぎる。だからこそ、ストレスがたまって
・・・ってことなんだろうけど、どうも、そこまでストレスがたまってるって印象が感じられない
から虐待のシーンだけが浮いた印象になってしまった感じがしました。
それに、虐待を受けた側の隼太の反応がまた理解しかねるものでして。暴力を振るわれた人間に
対して、そこまで寛大になれるものかなぁ・・・。隼太の性格自体がなんだか掴みづらくて、
前半は彼の言動にいらいらしました。特に、先輩の靴を捨ててしまうくだりは、全く理解不能
淡々と意識せずに酷いことをしてしまう隼太こそ、性格破綻者なんじゃないかと思ってしまいました。
後半に入って来ると少し持ち直したのですが。彼が義父を失うまいとして必死に虐待を隠し通そう
とする態度は健気だし応援したくもなったのですが、実際に彼らが虐待を抑えられてしまうくだり
は、出来すぎでやっぱり、リアリティがないな、と思ってしまった。あれくらいで虐待を抑えら
れるってのがどうも・・・優ちゃんの性格だからこそ、だったのだろうけど・・・うーん。
世の中のDVはもっともっと酷いものだと思うから、こんなに安易に虐待を解決してしまうのは、
なんだかどこまでも絵空事にしか思えなかったです。
ラストもなんだかねぇ。すべてを知った母親に対する隼太の態度は酷いけど、彼らが頑張って
来たことを考えると、気持ちは理解出来ます。でも、なんだかもっと違う方向に持って行け
なかったのかなぁと思ったりも。せっかく隼太と優ちゃんが分かり合えたのに。でも、虐待
をするような人間は、絶対また繰り返す気はするから、これで良かったのかもしれないけれど。
彼らが再会する日は本当に来るんでしょうか。

いじめを題材にした『温室デイズ』は、淡々としたいじめ描写が余計にリアルに感じたのですが、
今回は淡々としすぎてリアリティがないな、と感じてしまいました。
久々に瀬尾作品だったのに、なんだか乗り切れないままでした。残念。瀬尾さんらしい要素と、
瀬尾さんらしからぬ要素が同居している、そんな印象でした。記事もなんだかすごく書き
づらくて、なかなか言葉が出て来なかった。こうして書いた内容も、自分が言いたいことが
書けているとは言い難い。こういう作品の感想は難しいなぁ・・・。
余談だけれど、職業柄、歯科医である優ちゃんが5分しか歯磨きしないって所についついダメだし
をしたくなってしまった。5分で全部の歯が綺麗に磨けることは有り得ません。そんな歯医者には
絶対かかりたくないぞ。