ミステリ読書録

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滝田務雄/「田舎の刑事の趣味とお仕事」/創元推理文庫刊

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滝田務雄さんの「田舎の刑事の趣味とお仕事」。

のどかな田舎の警察官・黒川鈴木。出来の悪い部下の白石に辟易しつつ、日々の業務をこなす。
しかし、自宅に帰った彼にはもう一つの顔があった。彼はパソコン上のネットゲームで、
可愛い女の子のキャラクターになりきって遊んでいるのだ。ある日、いつものようにオンライン上
で推理ゲームに興じようと仲間たちと待ち合わせをしていると、初参加のキャラクター二人が合流
してきた。そのうちの一人が、あろうことか部下の白石だった。ネット上だというのに、本名を
名乗って参加しているのだ。黒川は、自分の正体がバレないよう内心ヒヤヒヤしながらゲームを
続ける羽目に。一方、現実では、わさびの盗難事件が起こり、その犯行手口に頭を悩ませていた。
盗難事件の前にわさび畑をうろつく複数の怪しい人物がいたという。容疑者は三人。三人のうち、
犯人は誰なのか――(『田舎の刑事の趣味とお仕事』)。田舎の刑事が解決する5作の短編を
収録。脱力系ユーモアミステリー。


ミステリフロンティアで出た時、タイトルからしてゆるそうな空気が漂っていて、なんとなく
読み逃していたのですが、面白いと聞いたので文庫版を借りてみました。タイトルそのままに、
田舎ののんびりした空気が作品全体に醸し出すのどかな雰囲気がいいですね。
ただ、ミステリとしては正直あまりいい出来とは言い難い。とにかく謎解きの説明が回りくどいし
わかりにくい。謎解き部分はもう少しすっきり焦点をしぼって書いて欲しかったです。事件が
起きた経緯なんかもそう。情景がいまひとつ頭に思い描けず、ピンと来ない作品が多かったです。
情景描写が巧くないのかな、この方。一作目二作目を読んだ辺りでは、ちょっと自分には合わない
なぁ、これは続編読まなくてもいいかなぁ・・・って感じだったのですが、そこから一作ごとに
キャラが変わって行く黒川刑事に目が離せなくなりました(笑)。もう、これはキャラ立ちの
勝利ですよ。だってね、始めは刑事としては頭のキレるしっかり者ってキャラだったのに、
一作ごとにそのキャラがどんどん崩れて軟弱化して行くんですから。誰もが、そ、そんなキャラ
だったの、アナタ?ってツッコミたくなること必死。その最も大きな原因となっているのが
一作目では亭主関白な黒川に三つ指ついて従う従順そのものの良妻キャラだった黒川妻の存在。
黒川が一作ごとに軟弱化して行くのとは反対に、奥さんの方は一作ごとにその黒い本性を現し始め、
強烈なキャラに変貌して行きます。もう、この奥さんの言動には唖然呆然お口あんぐり。面白
すぎる。にっこり笑って黒川を奈落に突き落とす言動が最高です。怖いよ、奥さん・・・。
どさくさに紛れてあこぎな客商売を始めて小遣い稼ぎするのも面くらいましたが、やっぱり
何といってもラストの作品で奥さんが操る腹話術人形『うさ丸』君のアッパレな毒吐きっぷりですね。
このうさ丸君のせいで、黒川はトイレに篭って泣きはらす羽目に・・・大の中年男が・・・ひえー^^;
きっとよっぽど日ごろの亭主に対する鬱憤がたまっていたのだろうなぁ・・・怖い、怖い^^;;

それ以外の脇役キャラもなかなか個性的。アホで空気の読めない白石を筆頭に、唯一真面目で
まともな赤木、のんきな課長・・・キャラ同士のゆるい会話だけでも十分楽しめる作品でした。
田舎で起きる事件の割に、最後の犯罪なんかは青酸カリを使った狡猾で陰惨なものですが、
黒川たちにかかるとまるで緊迫感がなく、呑気に思えてしまう。いいのか、これで、と
思わなくもないけど、これでいいんだろうな(苦笑)。でも、ラストの『田舎の刑事のウサギと
猛毒』は途中でオチが見えてしまって、なんで黒川たちがそこに気付かないのかなぁとツッコミ
たくなりました。伏線わかりやすすぎだろ・・・。

ミステリとして感心出来たものはほとんどなかったのですが、キャラ立ちの良さで一冊通して
楽しく読めました。これぞユーモアミステリ!って感じ。奥さんの存在がブラックユーモア
テイストになっていて、ぴりりと毒が効いているところもいいですね。これは俄然続編も読みたい
気持ちになりましたよ。続編では奥さんがどこまで怖くなっているのか、それによって黒川が
どこまで精神に痛手を受けているのかが気になって仕方ありません(笑)。

それにしても、黒川鈴木ってインパクトある名前ですねぇ。松尾スズキみたい。苗字苗字!
みたいな(笑)。ラストの作品で出て来た井馬南司(いまなんじ)にもウケたけど(笑)。
ちなみに、作者はたきた・みちおさん、とお読みするそうです(読めないぜ・・・)。