ミステリ読書録

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両角長彦/「ラガド 煉獄の教室」/光文社刊

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両角長彦さんの「ラガド 煉獄の教室」。

朝の教室で起きた残虐な生徒惨殺事件。犠牲になった女子生徒は、息を引き取る直前に「おとな
にはまかせられない・・・わたしをかわりに・・・」とつぶやいたという。犯人はすぐに警察に
捕らえられたが、犯行当時の記憶を失っていた。警察は、事件の真相を知る為、犯人の目の前で
事件を『再現』することに。93枚の教室見取り図と共に、少しづつ明かされて行く戦慄の
『真相』とは――第13回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


本屋で売っているのを見かけた時に、中をめくったらほとんどのページに『見取り図』が書かれて
いて、書面構成もちょっと変わっていたので、なんだか実験的な作品っぽくて面白そうだなぁと
思って読みたかった作品。地元図書館では予約がいっぱいで当分読めそうになかったのですが、
隣町図書館の開架であっさり発見。ほんと、こういう出会いがあるからわざわざ車で行かなきゃ
ならないのに足を運んでしまうのよね(苦笑)。

それに、全然知らなかったのですが、綾辻さんが絶賛した作品でもあるそうです。日本ミステリー
文学大賞といえば、ちょっと前に読んだ結城充孝さんのプラ・バロックと同じ賞ですね。
あれも確か選考委員絶賛でしたっけ(読んだ感想は酷評に近かったけど^^;)。

というわけで本書ですが。確かにスピーディな展開でほぼ一気読み。本文も少ないので、正味
二時間ちょいあれば読めてしまうような作品で、読ませる筆力はあると思う。朝の教室で惨殺
された女子中学生が『どのように』、そして『なぜ殺されなければならなかったのか』を、
事件を『再現』することで探って行くというのが大筋。気が滅入るような事件と好感の持てない
人物造形は、湊かなえさんの『告白』を彷彿とさせます。ほとんどのページに事件当時の生徒の
動きを表した『教室見取り図』が本文下段に併録されているのですが、正直、この見取り図、
こんなに細かく挿入する必要があったとは言い難い。もっと、この見取り図自体が事件の伏線に
なっているというものだったら面白かったと思うのですが、ほとんど関係なし。まぁ、私自身
見取り図なんていちいち参照して読んではいなかったのですが・・・。

ラストまではほんとに息つく暇もないくらいに一気に読めたのですが、はっきりいってラストは
拍子抜け。意味深に出て来た伏線がちっとも回収されきっていないし、事件の真相も引っ張った
割に意外性に欠けるし。ここまで風呂敷広げてそれかよーって言いたくなりました。もっと
驚愕の真相が隠されていたならなかなか面白い新人が出て来たと評価出来たと思うのですが。
ただ、こういう実験的な作品に挑んで来たこと自体は評価されていいと思うし、ぐいぐい読ませる
リーダビリティには才能を感じるので、作家自体の評価は次回作以降持ち越しって感じでしょうか。
っていうか、その辺りの作家自体への微妙な評価も前回受賞の結城さんと同じじゃないか^^;
この賞はいつもこんな感じの作品なんでしょうかね^^;
読みやすいので、ケータイ小説読んでるみたいな気分になりました。文章自体は悪くはないと
思うんだけど(軽いけど)。少なくとも、山田悠介よりはましじゃないかな。でも、人物造形を
もう少ししっかりさせて欲しいかなぁ。どうも、全体的に深みに欠けるような。

一番消化不良だったのは、冒頭から意味深に出て来たブルース・リーの正体。丸投げのままかよ!
とツッコミたくなりました。タイトルの意味もなんだかなぁって感じだし、サブタイトルも必要性
を感じなかった。『緑色の鹿』の真相も、いまいち説得力がなかったし。○○○にそんなことが
可能なのかな、っていう、根本的な疑問が・・・。全体的につめが甘いというか、細かい部分の
粗さをもう少し修正したら、もっと面白い作品になったかも。残念。

とはいえ、こういう実験的かつ斬新な作品を読むのはなかなか面白い。次はどんな切り口で攻めて
来るのか、次回作がどんな作品になるのかは気になりますね。