ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

池井戸潤/「民王」/ポプラ社刊

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池井戸潤さんの「民王」。

任期半ばで政権放棄した前首相に代わり首相の任に就くことになった民政党の武藤泰山。虫歯の
痛みもおして所信表明演説も終え、あとは解散総選挙のタイミングをいつにするかの段階だった。
そんな中、ある日泰山は国会答弁の最中に突然意識がなくなり、気がついたらなぜかパーティ
会場にいた。しかもなぜか泰山の大学生のドラ息子・翔の姿で――!何者かの陰謀で身体と中身が
入れ変えられたしまった泰山親子。泰山は翔の代わりに大学と就職活動に行き、翔は泰山の代わりに
国会に出ることに。当然その先はトラブル続き――日本の政治はどうなってしまうのか!?痛快
政治エンターテイメント小説。


今回のテーマは政治。最近の政権交代劇やらでえらいことになっている現在の政治情勢を考えると、
実にタイムリーな内容になっているのではないでしょうか。相変わらずどんなテーマを持って
来てもエンタメに仕立てあげてしまう筆力はさすがです。今回はいつにも増してテーマの割に
読みやすい作品になっています。というか、軽い。完全に政治問題を逆手に取ってコメディ
仕立てにして皮肉ってます。コメディを通り越してギャグに近いくらい。真面目な政治という
題材をここまで脚色しちゃっていいのかしらん、と思わなくもないのですけれど、面白いので
それでよし。内容的には理想論とご都合主義にしか思えない部分がほとんどなのだけれど、
本来の政治家はこうであるべきという姿でもあるんですよね。『日本の国と国民の生活を良く
しよう』という、どんな政治家も根底に掲げていなければいけない理念を忘れている政治家
たちがどれだけ多いことか。最近の日本の政治家たちの言動にはほとほとがっかりさせられて
いたので、そういう政治家たちにも本書を読んで何かを感じ取ってもらいたいと思ってしまい
ました。

ただ、まぁ、あまりにも軽いノリなのでいつもの池井戸作品に比べると重厚さには欠けるかな。
ドタバタを純粋に楽しむべき作品。ラノベかと思うくらい設定やキャラも軽いので^^;
政治小説って聞いていたので、多少身構えていたところがあったのだけど、読み易さでいえば
今まで読んだ池井戸作品の中でもダントツで一位かも。小難しい政治の話題もほとんど出て
来ないし(政治小説なのに^^;)。翔が泰山として国会に出席した時に読んだ原稿が傑作。
大学生のくせに、あそこまで漢字が読めないってのも致命的だね。良く大学入れたよなぁ・・・
(まさか、裏口・・・!?)。ある政党の陰謀でライバル政党の政治家親子の中身を入れ替えて
しまうという、なんともリアリティに欠ける荒唐無稽な設定ではありますが、なんでもアリの
ドタバタコメディと思って割りきって読めば非常に楽しめる作品だと思います。泰山の側近の
政治家たちもキャラが立っていて面白い人物ばかりでした。泰山とカリヤン(狩屋)の友情も
池井戸さんらしくて良かったです。愛人囲っちゃうのはダメだと思うけどねぇ(苦笑)。

翔と泰山が目指す道は違うけれど、理想を追い求めて自分の好きな仕事に情熱を燃やすという
のは、どんな職業に就いても大事なことだと思う。仕事をこなして行くうちに、そういう
最初の頃に掲げた理想や理念なんていつしか忘れて行ってしまうことがほとんどなのだろう
けれど。『初心忘るるべからず』、ほんとに大事なことですね。

空飛ぶタイヤ』や『鉄の骨』のような読み応えのある作品を期待するとちょっと肩透かしを
食らうかもしれませんが、一見とっつきにくい題材を見事にエンタメ小説にしてしまう手腕は
今回も顕在。ちょっぴり風刺が聞いたブラックユーモアを折り込みながら、軽妙に読める政治
エンタメ小説でした。終盤のあまりのご都合主義的な展開も、こういう作風なんでご愛嬌かな。
泰山みたいな人が首相になったら、今の日本の政治も少しは変わるかもね。
あんまり深みはないけど、痛快に読めてすかっとしました。面白かったです。