ミステリ読書録

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加藤実秋/「風が吹けば」/文藝春秋刊

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加藤実秋さんの「風が吹けば」。

「身の丈サイズでゆるーくやっていきたいと思う反面、ダサいもの、価値観に一ミリでも合わない
ものは受け入れたくない」。矢部健太高校二年生、夏休み直前。そんな彼が…。84年にタイム
スリップ「つっぱり」メンバー達とのひと夏のふれあい(あらすじ抜粋)。


時間がないのであらすじ抜粋ですみません^^;インディゴシリーズで大人気(?)の加藤実秋
さんの新作。私は、常々この作者さんの書く作品には80年代のオヤジ臭さが漂っているよなぁ、
と思っていたのだけど、今回はもう、その古臭いところを開き直って全面に出して来ちゃった
作品です。これ、多分作者的には書いててすんごい楽しかったんだろうなーと思う。だって、
主人公が80年代にタイムスリップしちゃうお話で、その時代の文化・風俗・ファッションetc...
すべて作者の書きたいように書けるんですから。どうも、作者って、40~50代辺りって感じが
するなぁ・・・と思って著者プロフィールを見たら1966生まれ。うむ。ズバリであったか(苦笑)。
なんか、私よりは絶対上だろうって感じがしていたから、納得。80年代のいろんな描写は、
基本的に懐かしい部分が多いんだけど、今読むとやっぱりちょっと小っ恥ずかしい感じがして、
なんだかムズムズしました。ヤンキーの内情なんかは実体験していないので、今読んでも
ちょっと引いてしまうところがありました。現代っ子の健太が感じる80年代の風俗や習慣
の古臭さへの抵抗やら恥ずかしさには、同じ80年代を体験してきた人間としても、共感出来
ました。新しいものを取り入れた生活を一度経験してしまうと、今更昔の生活に戻るのはやっぱり
キツイ。あの頃は携帯なんかなくたって普通に生活出来ていたし、聖子ちゃんカットが可愛いと
思っていたし(真似してませんよ)、男の子のシャツはズボンの中にインするのが普通だったの(笑)、
今思い出すと妙に恥ずかしい感じがするのはなぜだろう・・・。
でも、最初いろんな時代錯誤な物事に抵抗していた健太が、途中から開き直って80年代の生活に
順応していくところは好感持てました。それもこれも、久保田君という奇特な少年がいたおかげ
でしょうけどね。この久保田君、ビジュアルは完全にいじめられっこキャラなのに、妙に堂々と
しているし、ヤンキーとも対等に付き合ってるし、健太のタイムスリップにも動じないし、
なんだか不思議なキャラでした。ビジュアルとキャラが合っていないというか・・・いいキャラ
ではあるんですけども。なんとなく違和感を覚えながら読んでました。いきなり未来から現れた
得体の知れない少年を何の抵抗もなく部屋に泊めちゃうような度が過ぎたお人好しっぷりにも、
かえって腹に一物抱えているかのような怪しさを感じたりして(杞憂でしたが)。

ストーリーとしてはあまり意外性もなく、淡々と80年代の描写が続いて行くので、後半は
ちょっとだるかった。ヤンキーたちの日常にも引いてしまったところがあったし。ラストの
展開も案の定というか、ほぼ予想通り。和希ともしかしていい雰囲気になったりするのかな、
と思ったけど、さすがにそれもなかったし。確かに、健太がタイムスリップしたことで若干現代
の生活に変化があった辺りは良かったのですが(久保田のお箸のところとか)。残念だったのは、
結局貴大の母親の身の上が変わらなかったところかな。
久保田が健太のことを覚えていたので救われた気持ちになりました。読後感は悪くはないの
ですが、読み終えて残るものはなかったな。結局、作者の青春時代の郷愁を延々と読まされただけ
のような気が・・・。同じ年代の人は多分、懐かしい気持ちで読めるんじゃないかな。かえって、
その時代を全く知らない十代とかの方が新鮮な気持ちで読めるのかも・・・。まぁ、作者が
楽しんで書いているのは伝わって来ましたけどね(きっと、インディゴシリーズの晶さんなら
ノリノリで読んでしまうに違いない(笑))。