ミステリ読書録

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恒川光太郎/「竜が最後に帰る場所」/講談社刊

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恒川光太郎さんの「竜が最後に帰る場所」。

恒川光太郎が五つの物語で世界を変える―。 風を、迷いを、闇夜を、鳥を。著者はわずか五編
の物語で、世界の全部を解放してしまった――。静謐な筆致で描かれた短編は、小説の新たな
可能性を切り拓く! (紹介文抜粋)


最近あらすじを考える頭がありません。本を読むペースも落ち気味なのに予約本が怒涛のごとくに
回って来てしまって、どうやって読書計画を立てたらいいのかちょっとしたパニック状態の私です^^;
そんな中で手に取った恒川さんの新刊、相変わらず読みやすくって一気読み。そして、前作の
『南の子供が夜いくところ』では、若干自分の好みからズレていてちょっとノリ切れないところが
あったのですが、本書は良かった!これは、もう、私の好きな恒川さんそのまんまって感じの短編集
でした。冒頭の『風を放つ』はちょっとピンと来ないところもあったのですが、続く『迷走の
オルネラ』『夜行の冬』『鸚鵡幻想曲』と傑作揃い。ラストの『ゴロンド』はもう少しひねった
展開があれば、と思ったけれど、世界観は好きでした。ひんやりしてるような、でもどこか温かみが
あるような、恒川さん独特の空気感がどの作品からも漂っていて、良かったです。『夜市』や
『草祭』の時の「うわー、好きー!」っていうストレートな興奮とはまた違って、じわじわ、
しみじみと「うんうん。いいな、いいな」って思えるお話が多かったです。って、なんか上手く
感想書けないなぁ。特に好きだと思った『迷走~』からの三作は、恒川さんらしいひねりの効いた
設定と展開で、唸らされました。『南の子供~』でちょっと違う路線に行ってしまうのかな、と
ちょっと残念に思っていたところだったので、本書が読めて方向性が変わってないとわかって
嬉しかった。私の好きな恒川ワールドが戻って来た~って感じでした(勝手な感想)。


以下、各作品の感想。

『風を放つ』
主人公と高尾氏のお話なのかと思ったら、思わぬ伏兵が出て来て、その人物とのお話だったので
ちょっと面食らいました。結局、マミさんって何だったんだろうなぁ。彼女の『恨んだ相手を
殺せる』能力は本当だったのか・・・。ラストで主人公が電話していたらどうなっていたの
かなぁ。これは恒川さんにしては珍しくファンタジー要素もホラー要素もほとんどないお話。

『迷走のオルネラ』
これは良かった。宗岡の言動には本当に吐き気がする程の嫌悪を覚えたのだけど、クニミツが
彼にした復讐は、ある意味宗岡自身さえ救っていると言えなくもなく・・・でもやらせること
自体は確実に復讐でもあり・・・唸らされました。こういう復讐の仕方があるとは。宗岡が
マスター・ブラフに洗脳され、愛情を感じさせて行くところに、クニミツの歪んだ感情を見た
気がしました。彼はなぜ憎悪ではなく愛を与えたのでしょうか・・・。カキコさんやコジマとの
やりとりも良かったですね。何より、冒頭のシーンがああいう場面に繋がっていたことに驚かされ
ました。構成の巧さも光る一作だと思います。

『夜行の冬』
これも云ってみれば『夜歩く』というだけのお話なんだけど、そこに一風変わったファンタジー
要素が加えられていてとてもいい。得体の知れない『ガイドさん』について一晩歩く毎に、
パラレルワールドのような違う生活が待ち受けている。ガイドさんの一行から遅れると死が
待っている、という恐ろしさと戦いながらの夜行。漠然とした『歩かなければいけない』
という強い思いに捉えられて、ただ歩く。なんだか、怖いけれど、ちょっと体験してみたいような、
不思議なお話でした。同じ行動を繰り返しながら世界が変わって行く、こういうお話はとても
恒川さんらしい感じがしますね。

『鸚鵡幻想曲』
偽装集合体という設定自体が、もう、すごい。よくぞこんな設定思いつくよなぁと感心して
しまった。アサノが偽装集合体の存在を崩す場面は、思い描くと非常に気持ち悪い気もする
のだけれど。だって、虫は言うまでもなく、鳥だって膨大な数が群れをなしているところって
ぞぞっとするもの。でも、主人公の鸚鵡に関しては、綺麗だと思えました(そこまでの数じゃ
ないというのもあるけど^^;)。赤い鸚鵡と女の交流が良かった。ラストの展開も好き。

『ゴロンド』
最初読み始めは日本ホラー小説大賞とった宮ノ川顕さんの『化身』ぽいな、と思ったのだけど、
ゴロンドがある程度変態してしまった後は、割合ひねりのない展開なので、ちょっと勿体なかった
かな、という感じ。この作品のラストが小説のタイトル『竜が最後に帰る場所』に繋がる辺りは
巧いな、と思ったのですけれど。太古の竜たちは、こんな風に生活していたのかな。竜たちが最後に
向かった場所って、結局どんなところなんでしょうか。




ホラーテイストは控えめですが、恒川さんらしいひねりの効いた展開の作品が多く、やっぱり
このひとは独特の感性を持っているなぁと感じました。装幀も可愛らしくて素敵。表紙はそれぞれ
の作品のポイントとなるものが書かれているので、ひとつひとつ眺めても楽しい。
恒川ファンなら楽しめる短編集ではないかな。少なくとも、『南の子供~』よりは恒川ファンに
受け入れられるのではないかと思う。私は好きでした。