ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

A.A.ミルン/「赤い館の秘密」/集英社文庫刊

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A.A.ミルン「赤い館の秘密(柴田都志子訳)」。

蜂がうなり、鳩が鳴きかわすけだるい夏の昼下がり。ウッダムの村の「赤い館」で奇怪な殺人事件
が発生!たまたま館を訪れた優雅なる“フリーター”、アントニーギリンガム氏は、急遽、
探偵稼業を選択する。理想的なワトソン役にも恵まれたギリンガム氏の推理の腕前はいかに―?!
クマのプーさん』の作者が、生涯ただ一冊書いた長編本格ミステリー。極上の英国的ユーモアに
満ちた愛すべき名作(あらすじ抜粋)。


今月の海外作品はこれ。クリスティの『ホロー荘の殺人』にしようと思っていたのだけど、
貸しだし中で借りられなかった為、以前から気になっていたこちらに急遽変更。古典の名作
としていろんな作家があとがきやらエッセイで触れているし、タイトルからして好みっぽいし、
確かお仲間さんからの評価もなかなか良かったような覚えがあったし。それに、何より、表紙に
書いてある『乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10』の文字が決定打になりました。乱歩が
認めてる本格ミステリならば読んでおかねば!みたいな(単純人間(笑))。ちなみに、BEST10
の全作品は以下。

①フィルポッツ『赤毛のレドメイン家』
②ルルー『黄色い部屋の謎』
ヴァン・ダイン『僧正殺人事件』
④クイーン『Yの悲劇』
⑤ベントリー『トレント最後の事件』
⑥クリスティ『アクロイド事件』
⑦カー『帽子収集狂事件』
⑧ミルン『赤い館の秘密』
クロフツ『樽』
セイヤーズ『ナイン・テイラーズ』


うーむ。読んでいるのは②、③、④、⑥と今回読んだ⑧。カーの帽子収集狂は実家にあるけど、
結局未読のままなんだよねー^^;古典の有名作ばかりですよね。半分も読んでないとは、
ミステリ好きとして恥ずかしい限り。すみません・・・。この中で一番気になってるのは⑩の
セイヤーズ。前からなんとなく読んでみたいなーと思っていた作品なんだけど、面白いのかな?
クロフツは多分私には無理だろうなぁ・・・なんか、結構挫折してる人が多い作品ってイメージ
があるので・・・^^;①と⑤はタイトルは聞いたことあるけど、作家は全く知りませんでした^^;
今後の月イチ企画の候補に入れておこう。


ととと、前置きが長すぎた。すみません^^;;
でもって、本題。『赤い館の秘密』の感想ですが。実は、作者があのクマのプーさん
書いている作家だということを全然知らずに読み始めました^^;読んでる途中でなんとなく
カバー折り返しのところの作者紹介を読んだらそのことが書かれてあって、へーと思ったのでした。
あの愛らしいプーさんシリーズを書いている人が、こんな直球の本格ミステリを書いていたとは
驚きました。古き良き時代のイギリスの田園風景は作中からも伺えるのですが。トリックは
非常にオーソドックスながら、伏線もきっちり張られていて、なかなか巧い。犯人は早々に
明かされてしまうので、フーダニットの面白さというのはほとんどなく、犯行時に何が起きた
のか、その真相に至る過程と方法(トリック)を推理するハウダニットの部分を楽しむ作品
と云えるでしょうね。なかなか大胆な方法だし、この手のトリックものはいくらでも読んで
来ている筈なのに、まんまと騙されてしまいました^^;良く考えたら、当然そこに考えが
いかないとおかしいくらいなのにねぇ・・・。名探偵には程遠いですね、これじゃ^^;

素人探偵ものなんて、今だったらいくらでも例が挙げられるでしょうけれど、これが書かれた
時代にはとても新鮮だったんでしょうね。探偵役を担ったアントニーの経歴が面白い。若くして
莫大な遺産を受け継いだ後、世界を放浪しながら、各地でひとつの職に就いては、飽きたら
また違う職へと渡り歩く。まぁ、父親にしてみれば放蕩息子以外の何者でもない訳ですが、父親
もそれを容認しちゃってるところがすごい。世界放浪の旅に出ると決意した息子に対して、
『なら、寄った先から便りくらい寄こせよ』で済ませる父親って。手紙さえ出せばいいんかい、
とツッコミたくなりましたよ・・・。まぁ、こういう、良くいえばおおらかな父親に育てられた
おかげなのか、莫大なお金を持った放蕩息子な割に、アントニーの性格は嫌味なところがない分、
好感持てましたけどね。明晰な頭脳を持っているのも良かったのでしょうね。お金持ちなのに、
各地でちゃんと職に就いている辺り、労働意欲もある訳ですしね。転々としている割に、どの職でも
きっちり仕事をこなして普通の倍のお金を稼ぐってことは、どんな職でも有能に働けるってこと
だから、最近のフリーターとは基本的に違うんでしょうね(苦笑)。
彼のワトソン役として活躍する、友人のビルも楽しいキャラでした。あとがき解説の赤川次郎
も書かれていますが、六番目の杭の『六』を覚える為に四苦八苦するくだりには笑ってしまい
ました。アントニーの探偵活動にワクワクしながら付き合っている無邪気なところが憎めない
ヤツって感じで好感持てました。二人のやりとりがコミカルで楽しかったです。たまに、アントニー
のビルに対する仕打ちが酷い時がありましたけど(ビルにだけ汚い湖に潜らせたり、自分から
遠ざける為だけに、必要のない調査をさせたり。ある人物が『女』だったという調査結果は、
絶対何かの伏線になると思っていたのに・・・拍子抜けと同時にビルが哀れに^^;)。

残念だったのは、『赤い館』である必然性があんまりなかったことかなぁ。ま、この手の館
ものなんて、そんなものか。家が赤い理由も別に書かれてなかったような・・・(単に読み逃した
だけ?^^;)。
翻訳ものの割に文章が読みやすく、登場人物もあまり混乱せずに読めたので良かったです。
アントニーとビルの自称ホームズ&ワトソンコンビはなかなか気に入りました。でも、結局作者は
長編ミステリーをこれ以外には書かれなかったそうで。残念なことです。プーさんが人気出ちゃった
からかなぁ。勿体ないですね。

今月の一冊も無事読了。ほっ。あと二ヶ月で二冊。なんとか一年間は達成させたいなぁ。
頑張りマス。