ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖/「闇の喇叭」/理論社刊

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有栖川有栖さんの「闇の喇叭」。

平世21年の日本。第二次世界大戦後、ソ連支配下におかれた北海道は日本から独立。北の
スパイが日本で暗躍しているのは周知の事実だ。敵は外だけとはかぎらない。地方の独立を叫ぶ
組織や、徴兵忌避をする者もいる。政府は国内外に監視の目を光らせ、警察は犯罪検挙率100%
を目標に掲げる。探偵行為は禁じられ、探偵狩りも激しさを増した。すべてを禁じられ、存在意義
を否定された探偵に、何ができるのか。何をすべきなのか。(あらすじ抜粋)。 ミステリーYA!
シリーズ。


久々に理論社のYAレーベルミステリーYA!シリーズ。満を持して有栖川さんの登場、ということで
期待して読んだのですが・・・うむむ。私にはちょっと硬質すぎて読むのがしんどかった。戦争後、
北海道がソ連の統治下に敷かれ、日本から独立したという設定のいってみればパラレルワールド
日本を描いた作品。個人の探偵行為が禁止され、探偵という職業自体が否定される世界に生きる
高校生たちの物語。高校生が主人公なので、一応YA向けというのは頷けるのですが、緊迫した
他国との社会情勢が背後にある為、全体のトーンが暗く、現在の日本と北朝鮮を始めとする他国
との微妙な関係を皮肉っているような描写が多々見受けられるように感じました。成人男子の兵役が
義務づけられていたり、方言で話すと反社会的だと見做される為、地方出身でも標準語で話すこと
が暗黙のルールとなっていたりと、市民の私生活がかなり国から監視・管理されていて、高校生
の生活でさえ鬱屈した閉塞感がつきまとう。全体的に読んでいて息苦しいというか、重苦しさが
あって、ミステリー部分の面白さがその重苦しさに埋もれてしまったような印象でした。考えさせる
という意味ではYA向けというのも肯けなくはないのですが・・・でも、中高生がこれを読んで
面白いと思えるのかは・・・どうだろう。歴史や社会が好きで政治や社会情勢に興味がある子
ならば良いと思うけれど・・・軽い作品が読みたいと思ってこのレーベルに手を出した人には
ちょっと取っ付きにくい作品ではないかなぁ。ミステリの真相はなかなかに良く練られていると
思うし良かったとは思うのですけれどね。トリックはちょっと頭に思い描けないところもあり
ましたが^^;
でも、ソラの母親に関しては、意味深に謎が提示された割に解決されないままなので、ちょっと
消化不良。ラストも、切なく余韻の残る終わり方ではあるけど、ある意味放り出された感じで
なんとも言えない読後感。ただ、ソラが父親の悲劇を目の当たりにしたことで、『探偵になる』
という決意を固めるところには胸がすく思いがしましたが。社会から否定された『探偵』という
職業に、危険を承知で敢えて就こうと立ち上がるソラの姿勢はかっこいい。母と父を尊敬している
からこそ、でしょう。優れた探偵だった母親の血をそのまま受け継いだとも云えるのかもしれま
せんが。由之のソラへの思いは最後まで明かされないので、一体かれはソラと景以子どちらに
惹かれているのかわからずにいたのですが・・・最後のメールで彼の強い想いを知って、悲しく
なりました。彼らが再会する日は来るのでしょうか・・・。ソラの母親がどうなったのかも
謎のままだし、ソラがその後どうしているのかもわからないままなので、これは続編を想定
しているのかな。でも、続編よりは、有栖川さんにはもう少し明るめのYAものを書いて欲しい
なぁ。世界観とか題材があまり好みでなかったので、イマイチ乗り切れない読書となってしまい
ました。どうせYAものを書くなら、火村センセの高校時代とか書いてくれないかなぁ・・・贅沢か。