ミステリ読書録

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桜庭一樹/「伏 贋作・里見八犬伝」/文藝春秋刊

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桜庭一樹さんの「伏 贋作・里見八犬伝」。

江戸で「伏」と呼ばれる者による凶悪犯罪が頻発。小娘だが腕利きの猟師浜路は、浪人の兄と
伏狩りを始める。そんな娘の後を尾け、何やら怪しい動きをする滝沢馬琴の息子。娘は1匹の伏を
追いかけ、江戸の地下道へと迷いこむ。そこで敵である伏から悲しき運命の輪の物語を聞くが……。
里見八犬伝』を下敷きに、江戸に花開く桜庭一樹ワールド(あらすじ抜粋)。


桜庭さんの最新作。滝沢馬琴里見八犬伝を下敷きにしていますが、ほぼ全般に亘って桜庭
さんのオリジナル。そもそも、私の『里見八犬伝』の知識といえば、薬師丸ひろ子が主演した映画
のみ。それも観たのが昔すぎて、どんな話だったがあんまり覚えていない。薬師丸さん演じる伏姫
と彼女を守る八犬士がいたってことを覚えているくらい。確か真田広之が共演でしたよねぇ・・・?
本書は、馬琴の『里見八犬伝』は実話に基づいて描かれているという設定で、モデルとなった伏姫
と白犬の八房との間に生まれた子供の子孫たちが、江戸の町で『伏』と呼ばれ、殺戮を繰り返し
問題となっていて、『伏』を狩る為に立ち上がった漁師の小娘・浜路とその兄で浪人の道節が伏狩り
を始める、というのが物語の骨子。そんな彼らの伏狩りの模様と面白おかしくかわら版(江戸時代
の新聞ですね)に書き立てる滝沢馬琴の実子・冥土の存在も面白い。それぞれのキャラ造形が良く、
会話文もテンポ良くコミカルで面白い。でも、私が一番面白いと思ったのは、冥土が父の馬琴の
作品に触発されて書いた作中作の『贋作・里見八犬伝。特に伏姫と彼女の弟・鈍色との関係が
面白い。美しく自由奔放に生きる城の人気者の姉は、不細工で地味な弟に無関心で、弟は自分の
存在を無視し、光り輝く姉を恨み、憎む。けれども、その裏で本当は姉に恋焦がれて、羨んでいる
という。でも、途中のある出来事をきっかけに、姉と弟の立場が逆転してしまいます。城を出た
後の伏姫と八房のその後の10年の生活は、出来ればもう少し具体的に書いて欲しかったなぁ。
お城での伏姫が輝いていただけに、再び鈍色の前に姿を見せた後の伏姫の姿が余計に哀れに感じ
ました。毎晩のように、そんな哀れな姿になった姉の世話をしに塔に登る鈍色の姉への思慕の
思いにも切ない気持ちになりました。

元ネタに『里見八犬伝』があるせいか、桜庭さんにしては全体的に奇抜さが少ないおとなしめの
作品っていう印象だったのですが、時代物が苦手な私でも、時代ものと意識せずに読めるくらい
読みやすく、しっかりエンタメ作品になっていて面白かったです。特に、作中作での伏姫と八房や、
江戸パートでの伏たちが銀の歯の森に行く辺りの描写は美しいファンタジー調になっていて、
幻想的な感じが良かったですね。

ラストの道節・浜路兄妹と冥土のやり取りも楽しかった。これからも兄妹にくっついて冥土は
二人の記事をあることないこと書いて行くんでしょうね~。
アニメ化のお話もあるとか。確かに、映像化しやすそうな作品って感じではありますね。

馬琴の元ネタを知らなくても、十分楽しめる伝奇エンタメ小説になっていると思います。ただ、
桜庭ファンにはちょっと物足ないかも?義実の妹・藍色の扱いなんかは、もうちょっと掘り下げて
欲しかったですね。

あと、作中に挟まれている挿絵が私にはどうも違和感があって仕方がなかったのです。表紙絵
もですが。なんか、プロの絵っぽくないというか・・・。
前作『道徳という名の少年』でも中のイラストが好きになれなかったんですよね^^;どうも
その辺りの桜庭さんのセンスとは自分は微妙にズレがあるのかなぁと思いました。