ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有栖川有栖/「長い廊下がある家」/光文社刊

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有栖川有栖さんの「長い廊下がある家」。

廃村に踏み迷った大学生の青年は、夜も更けて、ようやく明かりのついた家に辿り着く。そこも
やはり廃屋だったが、三人の雑誌取材チームが訪れていた。この家には幽霊が出るというのだ―。
思い違い、錯誤、言い逃れに悪巧み。それぞれに歪んだ手掛かりから、臨床犯罪学者・火村英生が
導き出す真相とは!?悪意ある者の奸計に、火村英生の怜悧な頭脳が挑む。切れ味抜群の本格
ミステリ傑作集(あらすじ抜粋)。


有栖川さんの火村シリーズ最新刊。四作が収められています。このシリーズはやっぱり安定して
楽しめますね。トリックは瞠目するって程のものはないけど、火村センセとアリスが出て来る
だけでもう、私には十分面白く読めちゃう。盲目的ファン発言でスミマセン・・・(単なるファン)。
いつものスタイルを踏襲した前半二作も安定して面白かったのですが、個人的にはちょっと趣向
を変えた異色の後半二作の方が私は好きでした。特にニ作目の『雪と金婚式』は、カッパ・ノベルス
50周年のAnnyversary 50で既読でしたしね。一作目もなんだか読んでいて既視感があったの
だけれど、良く考えたら少し前に読んだ飛鳥部勝則さんの『黒と愛』とシチュエーションが似て
いたからでした。テレビの撮影で幽霊が出ると言われる屋敷を訪れた人々の間で殺人事件が起きる
という。ま、作風は全く違うんですけどね^^;
後半二作は、アリスと火村准教授がそれぞれ単独で中心となって展開する作品。それだけに、
どちらも相棒の出番が少ないところが寂しいといえば、寂しいのですが、似たタイプの作品が
多いシリーズなので、こういう、ちょっぴり毛色の変わった作品が読めるのはファンとしては
嬉しい。最後の一作は火村センセイ大ピンチの一作で、火村ファンとしてはちょっぴりやきもき
させられましたけれどね^^;そろそろこのシリーズの長編も読みたいなぁ。


以下、各作品の感想。

『長い廊下がある家』
トリックは割とオーソドックスかなぁ。推理は出来なかったですけど^^;大掛かりトリックと
いえば大掛かりだし、見方を変えると「なーんだ」って言いたくなるトリックとも言えます^^;
こういうのは映像で見た方がわかりやすいんだろうけどねぇ。ちょっと、火村センセの説明
聞いてもピンと来ないところがあって^^;でも、『長い廊下がある家』っていう設定は
ミステリ好きとしてはかなりそそられるものがありますね。

『雪と金婚式』
先述したように、既読作。トリックなんかはだいたい覚えていたので、そうそう、アレが
トリックで使われるんだよな~とか思いながら読んでしまいました(苦笑)。初読の時も思った
のですが、夫婦の仲が良すぎるところに何かあるのかな~とか勘繰っていたのですが、全然
そこには何の含みもなかったのでした(苦笑)。カッパ・ノベルス50周年記念の為に書かれた
作品だからなのか、夫婦の愛情を感じる優しい読後感で、温かい気持ちになりました。

『天空の眼』
火村英生に捧げる犯罪の中での刑事たちからのアリスに対する評価が散々だったのが笑えつつ
気の毒だったのですが(苦笑)、本書では、何と何と、アリスが正しい謎解きしちゃいます!!
何かの天変地異かと思いました・・・(何気に酷?)。でも、いつも間違った推理で准教授のヒントを
与える役割のはずの自分の推理が合っていた時のアリスの動揺や、推理が当たって喜んだりせず、
その推理の後にある苦さに凹む彼の心の動きがいかにもアリスらしくて、好きでした。そんな彼
だから、准教授が忙しくて事件に関われない時でも、刑事たちは彼に声をかけたくなるので
しょうね。アリスが刑事たちに愛されてることが感じられて、なんだか嬉しかったです。愛すべき
キャラクターですね。

『ロジカル・デスゲーム』
ある意味、一番の衝撃作かも。火村センセが自殺幇助男の身勝手によって、命をかけたデスゲーム
の相手をする羽目になってしまいます。三つのグラスの中の一つを選んで、毒入りを引き当てない
ようにするには・・・。火村センセイの確率の説明には今ひとつピンと来なかったのですが、
彼が死なない為にした細工にはビックリ。っていうか、あの短時間で相手に気づかれないように
その細工が出来たのかどうか、というところにはちょっと疑問を覚えるのですが。それに、体質
によっては死んじゃう場合もあるのでは・・・ほんとに、命がけの手段にでたなぁとヒヤヒヤ・・・。
ファンとしては、あまり心配させないで欲しいところです^^;でも、あの状況で冷静にその
判断が出来る准教授にはやっぱりシビレちゃいました(笑)。



装幀がちょっと『火村英生に捧げる犯罪』と被っているような(版元違うけど^^;)。
表紙のタイトル字のデザインがなんか可愛らしくて好きだな。
シリーズファンとしては、新作が読めるというだけで嬉しい。今回も楽しく読めました^^