ミステリ読書録

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三浦しをん/「木暮荘物語」/祥伝社刊

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三浦しをんさんの「木暮荘物語」。

小田急線・世田谷代田駅から徒歩五分のボロアパート『木暮荘』で一人暮らしをしている繭。ある日
の日曜の昼下がり、彼氏と部屋でごろごろしながらしゃべっていると、三年前、突然繭の前から姿を
消した昔の彼氏・瀬戸並木がやってきた。三年も音沙汰がなく、放置された繭は当然並木とは別れた
ものだと思っていた。しかし、並木は別れたつもりなどなかったらしい。海外から帰って来たばかり
の並木は泊まる場所がなく、なし崩し的に繭のところに泊めることになってしまった。現在の彼氏・
伊藤さんも巻き込み、奇妙な三角関係生活が始まってしまった――(『シンプリーヘブン』)。
おんぼろアパート『木暮荘』を取り巻く様々な人間模様を描いた連作短篇集。



変な時間に更新でスミマセン^^;昨日の夜90%くらい書いていたのですが、相変わらずの
体調不良でそのまま寝入ってしまいました^^;
リコメントも放置したままで申し訳ありません。今日は仕事納めで忘年会の予定なので(この
体調で参加するつもりらしい)、明日まとめてリコメントするつもりですので、もうしばらく
お待ちください^^;ベスト記事も明日か明後日書けたら書きたいと思います(体調次第^^;)。



しをんさんの最新作です。やっぱり巧いですね~。可愛らしい装幀が好みで、内容もほのぼの
した作品ばかりかと思いきや、大幅に予想したものとは違ってました。基本的な内容は、タイトル
通りの『木暮荘』というおんぼろアパートに住む人々や、住人の関係者たち一人一人にスポットを
当てた物語ではあるのですが、その内容たるや、結構生々しい。というのも、多くの作品の根底に
あるものが性行為であるということ。木暮荘の大家からして、70の老年になって突然性行為への
渇望が沸き起こり、若い女性と行為に及ぶにはどうしたらいいのかと悶悶としている老人だし、
住人は三人の彼氏と付き合い、毎晩のように性行為を繰り返す女子大生がいるかと思えば、その
女子大生と彼氏の行為を覗き穴から覗き視る男がいる。冒頭の作品では、彼氏との行為の後で
いちゃついているところを昔の彼氏が訪ねて来るというシーンから始まっているし。でも、
こうして文章にすると、なんだかとんでもなくいやらしいエロ小説なのかと思われてしまい
そうなのですが、全然そんなことはなくて、セックスの扱いがとてもあっけらかんとしている
ので、いやらしい感じは全くなかったです。それぞれの人物がしていることや考えていることは、
一見嫌悪感を覚えそうなものばかりなのですが、それぞれの内面描写がしっかりしているので、
行為に反してなぜかその人物に好感が持ててしまう。これはしをんさんのキャラ造形の巧さから
来るものではないかと思いますね。木暮荘を取り巻く人間関係の機微がリアルに描かれていて、
小気味良く読めました。面白かったです。


以下、各短編の感想。

『シンプリーヘブン』
並木みたいな放浪癖のある人物は絶対彼氏にはしたくないですね。何も言わずに出てって三年も
放置しておいて『まだ付き合ってる』って、いったいどういう神経なんだか。でも、なんだか
憎めないんですよねぇ。ちょっと、行天っぽいかな。繭の彼氏の伊藤さんがいい人で良かった(笑)。

『心身』
これはなかなかに面食らう設定でしたねぇ。70歳の老人が突然セックスに目覚めてしまうという
・・・。どうしたら行為が出来るのか、真剣に悩んで、真剣に店子の彼氏に相談しているところが
なんだか笑えました。デリヘル嬢とのやり取りもなんだかズレていてくすりとしてしまいました。
ラストの店子の女子大生とのやり取りもほのぼのしてて良かったな。男性って、いくつになっても、
こういうこと考えるものなんですかね(偏見?)。

『柱の実り』
駅のホームの柱に突然生えて来た水色の男性器のような形のキノコを巡る物語。またすごい設定を
考えついたものです^^;男性のアレの形のキノコがきっかけで発展していく男女の恋。ラストは
ちょっぴり切ない。トリマーの美禰の過去が意外に重くて驚きました。それにしても、結局キノコ
の正体は何だったのでしょうか・・・。二人だけの幻影??

『黒い飲み物』
一話目に出て来た繭が勤めるフラワーショップの店長・佐伯が主人公。泥味のコーヒー・・・私、
コーヒー党なので、飲みたくないですね~^^;これも夫婦間の性生活の問題が結構あからさまに
出て来ます。不倫ものって、大抵奥さんの怖さを感じて終わることが多いけど、これもやっぱり
そうでした。この奥さんは執念深そうだなぁ・・・。

『穴』
覗き穴から階下の女子大生の生活をのぞき見する男の話。なんか、こういう天上からのぞき見する
話って、乱歩にありましたよねぇ。私だったら、絶対に嫌ですが、これに出て来るのぞき見される
方の女子大生の反応はちょっと、というかかなり変わってる。まぁ、見られているということで
より興奮する人がいるっていうのは聞いたことがありますが・・・。のぞき見する側と見られる側
の関係が面白かったです。でも、やっぱり変態行為には違いないですけどね^^;

『ピース』
前の作品で何度も登場する木暮荘に住む女子大生にスポットを当てた一作。彼女の生活を表面から
見ているだけだと、男性関係や性生活にだらしなくて、部屋が汚い、料理も作らない、自堕落な
女の子っていうマイナスのイメージしかなかったのですが、実は彼女にはとても重い秘密があった
ことがわかり、彼女の印象が変わりました。同じ女性として、もし自分だったら・・・と考えると
彼女の言動すべてが胸に痛い。誰もどうすることも出来ないことだからこそ、彼女のやりきれない
人生に誰でもいいから光を与えてあげて欲しいと思ってしまいました。のぞき見の男が意外に彼女
の本質を見抜いているところが嬉しかったな。

『嘘の味』
冒頭の『シンプリーヘブン』に出てきた並木が主人公。っていうか、アンタまだそんなところに
いたのかい!とツッコミたくなりました^^;いい加減な男に見えて、実は一途だったんだなぁ。
でもストーカーはどうかと思うよ・・・。繭を放置してたのは自分だし、自業自得なのだから
仕方ない。繭のフラワーショップに来る謎の黒髪女性の正体がわかります。いいなー、こういう生活。
私も絶対働かなくなるな・・・^^;
でも、何もしない、何も生み出さない毎日って、本当に幸せなのかな。ただお金を食いつぶすだけの
人生・・・。並木と出会って、これから彼女が変わって行くといいな、と思います。並木の生活と
性格もね。



木暮荘を舞台に繰り広げられる人間模様。一人一人その人の人生があって、他の人の視点からでは
わからなかった内面が、その人物視点の回だと見えて来るところが巧いな、と思いました。繭が
引っ越しちゃったら、ますます木暮荘の存続が危うくなりそうで、心配です。これからどんな
人物が住んで、どんな人生を送るのか、女子大生や覗き男のその後はどうなるのか、木暮荘の
その後のお話も読んでみたいですね。
装幀がすごく好き。でも、この可愛らしい表紙で手に取ると、第二話で出て来る○ックスの単語
の頻出に引く可能性も・・・^^;そういう生々しい部分もあけすけに描いてしまうところが
しをんさんらしいな、と思いましたけれどね。