ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

辻村深月/「本日は大安なり」/角川書店刊

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企みを胸に秘めた美人双子新婦、プランナーを困らせるクレーマー夫妻、新婦に重大な事実を告げ
られないまま、結婚式当日を迎えた新郎……。人気結婚式場のとある大安の一日を舞台に人生の
悲喜こもごもをすくい取る(あらすじ抜粋)。


辻村さんの新刊は、今までとは大分作風を変えて、結婚式場で繰り広げられる四つの結婚式を
巡る人間ドラマを描いた群像小説。とっても面白かった。私のような独身女性にとっては、
やっぱり見過ごせない題材ですから、終始興味津々で読んでしまいました。既婚の方なら、
自分の結婚式や披露宴の時のことを思い返して読めるのではないかな。
物語は、老舗のホテルである、ホテル・アールマティにて、ある大安の一日に行われる四つの
結婚式を、それぞれの結婚式に出席する人物と、ウェディングプランナーの山井多香子それぞれの
視点から交代で追って行きます。出て来る登場人物たちの思惑は様々。どの結婚式も、すんなり
とは行かず、いろんな問題を抱えています。結婚式といえば、人生最良の日と言っても過言じゃない
位の慶事だと思うんですが、今回出てくる四つの結婚式では、すんなり事が運ぶ式が一つもない。
プランナーに苦情を言いまくる新婦、新郎の愛情を試す為に、式当日に新婦の入れ替わりを企む
双子の姉妹、二重婚を阻止する為に式場に火をつけようとする新郎、白雪姫の格好をした新婦を
毒リンゴで殺そうと企てる新郎・・・といっても、後者の新郎に関してはちょっとした行き違い
から、そう思い込んでしまった人物がいたってだけなのですが。一つくらい、幸せに満ち溢れた
式があってもいいんじゃないかと思いましたが・・・^^;

一番ムカついたのは、ちょっとした出来心から妻がいるにも関わらず浮気相手と結婚式を挙げる
羽目に陥ってしまった鈴木陸雄パート。陸雄の身勝手な考え方には、ほんとにいちいち腹が立ち
ました。自分が招いた種なのに、自分は特別で、今までの人生ではピンチに陥るといつも誰かが
最後に救いの手を差し伸べてくれていたという思い込みから、今回も最後まで誰かが何とかして
くれるとどこまでの他力本願なところが許せなかった。しかも、挙句の果てには、誰も救って
くれないと悟った結果、式場に火をつけようとし始めるし。その有り得ない思考回路にはほとほと
呆れ果てました。

結婚式で、旦那の愛情を確かめる為に新婦役の入れ替わりを企む双子姉妹の行動も、ちょっと
理解し難かったなぁ。この双子パートだけ童話調を意識したようなですます調なのもちょっと
違和感がありました。別に、普通の語り言葉で良かったんじゃないのかなぁ。普段の言葉使いも
同じように丁寧だったらまだわかるんですけど・・・。でも、最後の旦那さんの行動にはちょっと
感動したな。多分、この旦那さんならそうなるだろうとは思ったのだけれどね。一枚も二枚も
上手だったってことで。ちょっと胸がすく思いがしました。でも、普通はこんな厄介な女性は
敬遠されそうですけどねぇ。っていうか、これをやられた時点で怒って破談になってもおかしく
ないと思いますけどね^^;

小学生の真空君パートでは、辻村さんらしい、他作品とのリンクが。本書も前作に引き続きリンク
なし作品かなーと思っていたので、個人的にはちょっと嬉しかったです。ちなみに、リンクして
いるのは『子供たちは夜と遊ぶ』。誰が出て来るかは、読んでのお楽しみ、ということで^^
でも、新郎がリンゴに仕掛けたことに関しては、私でもピンと来ちゃいました。それにしても、
真空君はいい子だね。

ウェディングプランナーの多香子にクレームばかりつける困った新婦の玲奈のキャラは、いかにも
辻村さんらしい。最後には、印象が変わって好感の持てるキャラになっちゃうところもね。
式の最後の多香子へのサプライズには胸が熱くなってしまいました。

物語が進むにつれてどの結婚式にも不穏な空気が流れて行くので、黒いオチになったりするの
かなぁと思ったりもしたのですが、さすがに大安の一日だけあって、最後はどの人物も明るく
幸せになれるよう予感させるような結末で、読み終えて温かい気持ちになりました。やっぱり、
結婚式は幸せに満ちたものでなければね。

人生たった一度きり(じゃない人もいるけど、そこはツッコまないように)の結婚式と結婚披露宴
だからこそ、みんなそれぞれにいろんな思惑を抱えて当日を迎えるものなのでしょうね。
ウェディングプランナーさんとの関係なんかも、いい式にする為には大事なことなんですね。
勉強になりました(笑)。
といっても、実は私、ウェディングドレスには憧れがあるけれど、結婚式とか披露宴に対する
憧れってないんですよね・・・結婚式はともかく、披露宴なんて特に。私も何度も友人や親戚の
結婚式や披露宴には出席しているけれど、毎度ながら、あの高砂で人形のように見世物化して
いる花嫁の姿を自分に置き換えると、無理だ、と思ってしまう^^;人の式に出るのは楽しいし、
花嫁さん見てると、幸せのおすそ分けしてもらえる気分になれて得した気分にもなるのですけれどね。
結婚式の新郎新婦のハッピーオーラって半端ないですからね~。
しかし、一回の式にかかる費用って、平均で三百万もかかるんですねぇ・・・ひえぇ。そりゃ、
高い買い物だぁ・・・^^;
自分が当事者になる日はいつかなぁ・・・(遠い目)。はは。ははは~・・・(虚)。


いろんな登場人物たちの結婚に纏わる悲喜こもごも、テンポ良く楽しく読めました。
結婚や結婚式(披露宴)について、いろいろ考えさせられる作品でした。
読んだら、ちょっぴり幸せのお裾分けをもらえた気持ちになれるかも。
結婚式は、やっぱり大安がいいのかもね。