ミステリ読書録

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スティーヴン・キング/「ゴールデンボーイ 恐怖の季節 春夏編」/新潮文庫刊

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スティーヴン・キングゴールデンボーイ 恐怖の季節 春夏編(浅倉久志訳)」。

トッドは明るい性格の頭の良い高校生だった。ある日、古い印刷物で見たことのあるナチ戦犯の顔を
街で見つけた。昔話を聞くため老人に近づいたトッドの人生は、それから大きく狂い…。不気味な
2人の交遊を描く「ゴールデンボーイ」。30年かかってついに脱獄に成功した男の話「刑務所の
リタ・ヘイワース」の2編を収録する。キング中毒の方、及びその志願者たちに贈る、推薦の1冊
(紹介文抜粋)。


なんとかかんとか、4月中に間に合って良かったです^^;先月は震災の影響もあってお休み
した月イチ企画ですが、もちろん今後も出来る限りは続けて行きたいと思っております。
という訳で、今月の一冊は、前回のスタンド・バイ・ミーの記事でみなさまにお薦め頂いた
四部作の続きです。本書には、『刑務所リタ・ヘイワースと表題作のゴールデンボーイ二作
が収録されております。『刑務所~』の方は、観た方からは必ず大絶賛されている映画『ショー
シャンクの空に』の原作。とはいえ、私実は、友人から勧められて何年も前にビデオに撮ったものの、
結局今にいたるまで観ていないという^^;しかも、テレビを地デジに変えたせいでもうビデオが
観れない^^;
で、そんな訳で原作を読むのをとても楽しみにしていたのですが・・・実は、途中まではさほど
面白いと思って読んでなかったんですよね。ある囚人による、刑務所に入って来たアンディという
男に関する回想が延々と続いて、ちょっと単調というか、退屈に感じてしまって、なかなか読み進め
られなかったんです。でも、終盤、男が脱獄に成功した後のストーリー展開がすごく良かった。
特に、男が脱獄するに至る経緯を述べるくだりで、単調に思えていた前半の刑務所内での何気ない
描写に、脱獄に必要なポイントがたくさん伏線となって隠されていたのに気付かされ、感心しました。
特に、リタ・ヘイワースにああいう意味があったとは・・・!実は、そこを読むまでは、タイトル
にちょっと疑問を感じていたんですよね。ポスターの女優はその時々で変わっているのに、なぜ
敢えて彼女の名前なのかなー、と。でも、そこまで読んで、なるほど~と納得。
でも、この作品のいいところは、その更に先の部分。男が脱獄した後、語り手のレッドがヒッチ
ハイクをして、ある場所に行き着いて、ある物を見つけるシーンには胸が熱くなりました。この後、
レッドの希望はきっと叶えられていると信じたいですね。読んだ誰もが、それを願う筈です。

で、二作目のゴールデンボーイですが。文庫の副題『恐怖の季節』『恐怖』の部分で
云えば、四作の中でこの作品が飛び抜けてるんじゃないでしょうか。いやー、怖かったです。
ナチスドイツの戦犯を偶然見つけてしまった少年が、その老人の元を訪ねて、ナチ時代の話を
聴いていくうちに、自らの中に狂気が芽生えて行き、語る老人の方にもかつての狂気が蘇って
来る・・・というお話なんですが。二人の狂気の行き着く先が全く同じってところも怖いし、
二人の心理戦みたいなやり取りも非常に緊迫感があってゾクゾクさせられました。トッド少年
がねぇ、もう、ほんとにムカつくというか、そら恐ろしい言動ばかりする少年で。たまに、
子供らしいところも見せるんですが、年を取るごとにそういうのが抜けて行って、ほんとに
少年らしくない狡猾さで、少年の皮を被った『悪魔』そのままって感じになっていくのが
怖かったです。自分の子供がこんな子に育ったらと思うと・・・(><)。アメリカで銃を
乱射する犯罪者はこういう風にして出来上がっていくのか、というのを見せられた感じでした。
元ナチの戦犯ドゥサンダー老人のラストはちょっと意外でした。出来れば、もう少し苦しんで
欲しかった気もしますが・・・彼が生涯のうちに犯した罪の深さのことを考えるとね。最後には
自分の無責任な行動で一人の少年の人生をつぶしてる訳ですしね(まぁ、少年の場合自業自得
ですけど)。彼が語るナチ時代の話には気分が悪くなりました。こんな話を嬉々として聞くトッド
の性悪な性格にも。
まぁ、とにかく、胸糞の悪くなるようなお話ではあるんですが、単純に『読み物』としては
一番面白かったと云えるかも。やっぱり、少年と老人のどっちもどっちな性悪なキャラ造形が
効いてましたね(苦笑)。好感は一切持てないんですけどね(苦笑)。

全く読後感の違う二作、どちらも面白かったです。
お薦めして下さったみなさま、ありがとうございました^^