ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

東野圭吾/「真夏の方程式」/文藝春秋刊

イメージ 1


夏休みを伯母一家が経営する旅館で過ごすことになった少年・恭平。仕事で訪れた湯川も、その宿に
滞在することを決めた。翌朝、もう一人の宿泊客が変死体で見つかった。その男は定年退職した
元警視庁の刑事だという。彼はなぜ、この美しい海を誇る町にやって来たのか…。これは事故か、
殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは―(あらすじ抜粋)。


待望のガリレオシリーズ最新刊。予約に若干乗り遅れ、二ヶ月遅れとなりましたが、ようやく読め
ました。といっても、東野さんの新刊なら二ヶ月遅れでも全然遅くはないよね。私の後にはすでに
400人以上の人が待っている訳だし。予約20人待ち程度の私が二ヶ月待たされたんだから、
最後の人なんて、一体何年待ちになるんですかね。

今回は長編。ガリレオ湯川先生が、海底鉱山資源開発の調査をする為に、玻璃ケ浦という海辺の
街にやって来るところから始まります。行きの電車の中で、湯川先生は一人の少年と知り合いに
なり、その少年が泊まる予定の宿を聞き出し、思うところあってそこに泊まることに決めます。
宿はシーズンオフということもあって、湯川先生の他に一人しかお客さんがいません。けれども、
その唯一の客が奇妙な場所で死んでいるのが発見されるのです。警察の捜査で、その死は単なる
事故ではないことがわかり、事件は混迷を来たして行くことに・・・というのが大筋。

今回、普段とは離れた街で事件が起きるので、草薙刑事や打海さんは出て来ないのかな、と
思ったのですが、そんなことはなく、ある理由から警視庁も事件に介入して来る関係で、しっかり
二人とも登場します。しかも、今回は二人がパートナーを組んで行動するので、二人で出て来る
シーンが結構多い。その分湯川先生との絡みが少ないのが残念ではありましたが、草薙刑事と
内海さん、なかなかの名コンビなのではないかと思いました。どちらも鋭い着眼点を持っている
せいか、独自の視点で捜査を進めることが出来るので、単独で動いてもちゃんと捜査に収穫が
ある。無駄な動きがあまりないので、捜査の進展も早い。その上、隠し玉に湯川先生がいるん
だから、二人のコンビって最強じゃないかと思いました(笑)。このまま二人で組んで仕事して
たら、お手柄連発で出世するのも早いかも(笑)。まぁ、今回の事件に関しては、結局二人の
捜査が、表面上ではほとんど解決に関わっていないような形になってしまった感じでしたが。

今回、このシリーズ最大の魅力である理系トリックだけを取ると、少々物足りなさを感じる
ところは否めないのですが、何といっても、本書の最大の読み所は、少年と湯川先生のひと夏
の交流の部分ではないかと思います。もともと湯川という人物は、クールなキャラクターに
反して、事件解決の部分ではかなりの人情派だと思うのですが、今回も彼のその人間らしさが
非常に良く現れていたのではないかと思います。少年にけしかけられて、ムキになってゲーム
する湯川先生がなんだか可愛らしくて、ニヤニヤしちゃいました(笑)。宿題を手伝ってあげ
ようとしたり、一緒に夕食を食べていて、少年が食べているオムライスに羨ましそうな顔したりと、
意外な行動がいっぱいありました。子供に対して、こんなに親身に接するとは思いませんでした。
でも、湯川先生の素敵なところは、子供に対する時も、しっかり彼を『一人の人間』として扱って
いるところ。子供だからって、変なごまかしをしたり、適当にあしらったりしないので、二人の
シーンは対等の友人のように思えました。もちろん、湯川先生の方が少年にいろんなことを教えて
あげる立場ではあったのですけれど。
最後の、二人の別れのシーンで、湯川先生が少年に告げる言葉が心に沁みました。こんな
事件が起きた時に、少年のそばに湯川先生がいたことで、彼の人生は大きく変わったと思う。
たった一人で事件に向きあっていたら、彼の人格は一体どうなってしまったのか。湯川先生
の最後の言葉は、きっと一生少年の心に刻み込まれて行くのでしょうね。いつか、また二人が
再会する日が来るといいな、と思いました。


やっぱりこのシリーズは面白いです。湯川先生は素敵だし。今回もちょこちょことファン
サービスシーンが盛り込まれているところが東野さんらしい(ゲームのとことか、少年とペット
ボトルでロケット実験するとことか、海でシュノーケルするとことか、普段見られない姿が
拝めます(笑))。

事件の収拾に関しては、若干不満に感じない訳ではありませんが、ある人物を不幸にしない為には、
こうするより他になかったのでしょう。湯川先生の思いに、胸が熱くなりました。その気持ちが
本人にしっかり届いたことがわかって、嬉しかったです。

ガラス細工のように美しい玻璃の海が見て見たくなりました。
そういえば、少し前にどっかの海で日本の調査団がレアメタルを発見したというニュースを
やっていたのを思い出しました。相変わらず、時代に先駆けて作品を書かれる方だなぁ。その
先見の明があるからこそ、東野さんがこれ程の人気作家で居続けられるのかもしれないですね。