ミステリ読書録

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久保寺健彦/「GF (ガールズファイト)」/双葉社刊

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久保寺健彦さんの「GF(ガールズファイト)」。

和美は走っていた。夜の赤坂を走っていた。過去の栄光を取り戻すため。いや、これからの人生を
光り輝かせるために。―15歳でデビュー。一躍人気アイドルの座をつかみ、あっという間にその
座から転げ落ちた和美が仕掛けた一世一代の大勝負とは。5人の女性の戦いの物語から、目が
離せない(紹介文抜粋)。


久保寺さんの新刊。なでしこジャパンが世界一になった今、女性が強くなったという世の風潮を
象徴するような、女の子たちが頑張るお話ばかりを集めた短編集。思春期の男の子の世界ばかりを
取り上げた『中学んとき』とは対照的な作品ですね。とはいえ、あちらは中3の男の子しか出て
来ないのに対し、こちらは小学生から30間際まで、いろんなタイプの女性が登場します。
印象的なのは、どの主人公も、一癖あるような性格で、一般的にヒロインとなるようなタイプ
ではない所です。ちょっとひねくれていて、可愛げがない所があるというか。そこがかえって
リアルで良かったです。誰しも、大なり小なり醜い感情を抱えて日々を生きているものなのだから。
まぁ、嫌悪しか感じないヒロインもいましたけど^^;いろんなタイプのヒロインを据えている
ので、飽きずに読むことが出来ました。まぁ、一編づつも短いですけどね^^;
『草食系男子』『肉食系女子なんて言葉が流行る今の時代、女性が強い方がきっと世の中巧く
回って行くんでしょう。女の子が頑張るお話は、同じ女性として読んでいて嬉しくなりますね。
世の女性よ、たくましくあれ、と久保寺さんなりにエールを送っているのかな、と思いました。


以下、各作品の感想。

『キャッチライト』
一世を風靡したアイドルから転落し、売れないタレントと化した和美が、起死回生をかけて
赤坂ミニマラソンを走る。

和美のようなタレントって、芸能界にはいくらでもいるんでしょうね。絶対芸能界で生き残って
やる、という和美の執念は、端からみたら滑稽なのかもしれないけれど、私は嫌いじゃない。
まぁ、やり方は間違っていたかもしれないけれど、この根性があればこれからもやって行ける
んじゃないかな。

『銀盤がとけるほど』
フィギュアスケーターの菜摘は、師でありペアの練習相手であった父を亡くして、新たに
日米ハーフの黒川とペアを組むことに。しかし、父とすべる時と比べて何か違和感があり・・・。

フィギュアのことを随分と取材されたのでしょうね。私はフィギュアスケート見るのは大好き
ですが、ペアってさほど見たことがないので、ペア競技については勉強になりました。菜摘の
性格が我儘で、読んでてちょっとイラっとしたところもあったのですが、相手役の黒川の
穏やかな性格で救われました。ラストの展開にもニヤリ。

『半地下の少女』
大連で生まれた日本人の貴和。敗戦によって半地下生活を余儀なくされるのだが・・・。

貴和の性格が、場面場面でその都度変わるのがちょっと引っかかりました。戦時中を描いた
題材は、どんなものであれ、重さや苦さがついて回るものですね。貴和の母や祖母の最期に
胸が苦しくなりました。

『ペガサスの翼』
正義感の強いバイク乗りの翼。親しくしているもんじゃ焼き屋のおばちゃんが、最近世間を
騒がせている原付の二人組のひったくりにあった話を聞いていてもたってもいられなくなり、
二人組のことを調べ始めるのだが・・・。

ヒロインとしては、この話の翼が一番好きかな。仲のいいおばちゃんの為に、自分の身も
顧みずにひったくり犯に立ち向かって行く翼がたくましかったです。桜庭一樹さんの『製鉄
天使』の小豆を思い出しました。翼と慎吾の関係も好きでした。慎吾の良さに翼が気付く日は
いつになるんでしょうか。

『足して七年生』
鳥インフルエンザが発生した兄弟校に向けて激励のビデオレターを送ることになった柿生小学校。
代表に選ばれた六年生の可奈子は、一年生の拓馬とペアを組むことに。しかし、拓馬は二人揃って
声を出す場所で、なぜか声を出さない。一体何故なのか・・・。

可奈子がクラスで孤立していく様がリアル。ちょっとしたきっかけで、クラスのヒエラルキー
最下層にされてしまう。友山が陰湿でムカムカしました。それだけに、ラストの可奈子の啖呵に
すかっとしました。最後に拓馬がくれた手紙にジーンとしつつ、くすり。大人になっても、
この言葉、お互いに覚えていられたらいいのにね。ちょっと歳の差ありすぎるか^^;




一編づつが短いので、少々物足りない感じもありますが、さらっと読めて、逞しい女の子たちの
頑張りに、ちょっぴり勇気がもらえて良かったです。男性が読んだらどう感じるのかなぁ、コレ。
ちょっと、男性側の感想も聞いてみたいかも。