ミステリ読書録

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乾ルカ/「四龍海城」/新潮社刊

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乾ルカさんの「四龍海城」。

夏休みの最初の午後。中学生の健太郎は、海に浮かぶ謎の城に閉じ込められてしまう。城には同じ
ように迷い込んだ十数人の大人たちと、暗い目をした少年、貴希がいた。次第に覇気を失う大人を
尻目に、健太郎と貴希は城を出ようともがき続ける……。孤独で清らかな二つの魂がからみあう、
ひと夏のファンタジック・サスペンス(あらすじ抜粋)。



※感想が一部作品のラストに言及しています。未読の方はご注意下さい。
読むつもりの方には、出来れば先入観なしにこの作品に当たって頂きたいです。
作品の面白さは保証致します。










乾さん、またしても新刊が出ました。しかし、ほんとにこの人の執筆ペースはどうなってるん
ですかね。コンスタントに新作が出るのはファンとしては嬉しいけれども、追いかけるのが
大変です^^;でも、すごいと思うのは、これだけ短期間に本を出しているのに、一作の
完成度がちっとも低くならないことです。それどころか、毎回違う引き出しを提示されて、
その度に新鮮な気持ちで読める。強いて作品の共通点をあげるとすれば、ファンタジー
ノスタルジーでしょうか。そして、人と人との繋がりとそこで生じる痛み。今回の作品でも、
それは健在。読み終えて、胸が締め付けられるような痛みと悲しみが残りました。とても
素敵な少年たちの温かい友情を描いておきながら、こんな悲しい結末を用意するなんて。
乾さん、本当に人が悪いです。だって、この作品を読んで、主人公の健太郎と貴希の友情を
好ましいと思わない人なんていない筈。そして、二人の友情がいつまでも続いて欲しいと
願わない人だって、絶対いないって断言できる。それだけ、二人の間に芽生えたお互いへの
友情は、きらきらと美しくて何よりも尊いものだと思えたから。それだけに、この結末は・・・。
出城料に関しては、途中から見当がついていたから、こういう結果になるんじゃないかと
嫌な予感はしていたのですが・・・何か、もっと他に方法を見つけてくれるんじゃないかと
願いながら読んでいたのですがね・・・もう、ほんとに、切なすぎます。お互いに一番大事な
ものを失って、彼らはこれからどう生きていくのでしょうか。健太郎はともかく、貴希の今後の
ことは想像したくないです。しばらくは健太郎に向けてトランペットを吹くのかもしれませんが、
それに限界を感じた時、彼はすぐに城人と化してしまう気がして怖いです・・・(><)。










相変わらず、抜群のリーダビリティで読ませる筆力には脱帽です。健太郎と貴希が城から
出られるのかどうか、先が気になってページを繰る手が全く止められなかったです。結局
候半はほとんど一気読みでした。乾作品は大抵そうなっちゃうんですけど^^;
結局、四龍海城って何だったのか、という一番大きな謎の部分には全く言及されていないの
ですが、そこを追求すべき作品ではないと思うので、まぁいいかな、と。それよりも、孤独な
少年同士のひと夏の邂逅を描いた、とても切なく美しい青春小説であることは間違いないと
思います。ラストをどう捉えるかで、この作品の好き嫌いは分かれるかもしれませんが・・・。
私としても、このラストには言いたいこともたくさんある。けれども、こういう収取のつけ方に
する以外になかったのかな、と思いました。
個人的には、『六月の輝き』と対になるような作品だな、と思いました。あちらは女の子二人の
切ない友情でしたし、ラストで片方がもう一人の為に音楽を奏でるところも今回のラストシーン
と通じるところがあるな、と感じました。どちらも、心が震えるラストシーンなのは間違いない
ですね。どちらの作品も、読み終えてひりひりと、胸に鋭い痛みと悲しみが残ったけれども。


乾さん、私は間違いなく、そう遠くない将来、直木賞作家になるんじゃないかと思いますね。
毎回書いてる気もするけれど、この筆力はもっと評価されていいと思うんだけどなぁ。