ミステリ読書録

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門井慶喜/「小説あります」/光文社刊

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門井慶喜さんの「小説あります」。

しょせん小説なんてお話じゃないか。絵空事じゃないか。廃館が決まった文学館。存続のために
手を尽くそうとする兄。その兄を、家業たる実業の世界に呼び戻そうとする弟。行方不明になった
ままの小説家と、積極的にかかわろうとしない親族。交錯し、すれちがう、いくつもの想い。
どうすれば伝わるだろう。いかに素晴らしいのか。人生に不可欠か。好評を博した『おさがしの本は』
姉妹編、待望の刊行(紹介文抜粋)。


前作『この世にひとつの本』がイマイチだったので、今回はどうかなぁと思いながら読んだのですが
・・・むむむ。今回も、タイトルが本好きの心を揺さぶるものだから、ついつい手が出てしまったの
だけど、なんだか、全体的にイマイチ感が・・・^^;このタイトル自体も、ちょっと内容に即して
いるとは言い難いような気がします(まぁ、それは前回もそうだったんですけど)。廃館が決まった
文学館の存続をかけて、『人はなぜ小説を読むのか』という命題について語り合う兄弟の議論は、
なんだか禅問答みたいに空疎に頭をすり抜けて行く感じで、面白味がなかったです。そもそも、
人はなぜ小説を読むのか、なんて、読む人それぞれの理由がある訳で、納得できる回答があるとは
思えないんですけどねぇ。最後に一応の決着はつきますけど、その回答に納得出来たかというと
・・・微妙。まぁ、確かに、一理あるとは思うんですけど。私も小説を通して、いろんな人と意見を
交わし合いたいが為にブログやってるところもありますし。でも、こういうツールがなければ、
普通の人は、本を読んで他人と意見を交わし合うなんてことあまりしないものじゃないのかな。
一応のみすてりー要素も多少はあるんですが、全体的に淡々と物語が進んで行くので、どうも
読んでいて先が読みたいって気持ちにならないんですよね。惰性でページを繰っていたような。
文学館存続の結末も、あそこまで郁太が頑張った甲斐もないようなあっさりしたものだったし。
遺作集にサインがしてあった理由の部分が一番面白かったかな。絵画修復士がいるように、書物の
修復士という職業もあるんですね。お金にはならなそうだけど、作業とか面白そう。

『おさがしの本は』の姉妹編ということを知らずに読んだので、和久山さんが出て来た時はちょっと
嬉しかったです。でも、どうせなら、もうちょっと活躍させて欲しかったかも。

作中で気になったのは、貴子・郁太・勇次の三姉弟のお互いの呼び名。大企業の重役になってる
ような人間が、自分の兄や姉のことをお兄ちゃん、お姉ちゃんって。自分のことは『私』なのに。
なんだか、姉弟(兄弟)間の会話に違和感を覚えて仕方なかったです。

あと、冒頭の方で、郁太が美夏の娘のかのんと出会って会話するシーンをゆくゆく何度も思い
返すことになる、と書いてあるのだけど、なぜ何度もそのシーンを思い返すことになるのか、
最後まで読んでもよくわからなかったです。一体どの会話が郁太の心に残っていたのか。これが、
将来、美夏と結婚することになる、とかならまだわかるんですが。そういうのもないし。なんだか、
消化不良でした。



また今回も辛口になってしまった^^;なんか、門井さんって、他と違う観点から作品を書こうと
するところは評価できると思うんだけど、それを『面白く読ませる』小説に仕立てる手腕が決定的に
欠けているような気がして仕方ないです。何かひとりよがりな印象を受けてしまいます。淡々とした
筆致は嫌いじゃないんですが、もうちょっと読者目線で作品を書いて欲しいなぁ。