ミステリ読書録

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ルイス・サッカー/「穴」/講談社刊

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ルイス・サッカー「穴(幸田敦子訳)」。

「まずい時にまずいところに」いたために、代々、イェルナッツ家の人々は辛酸をなめてきた。
スタンリー(イェルナッツ四世)は、無実の罪で、砂漠の真ん中の少年院にぶちこまれ、残酷な
女所長の命令で、くる日もくる日も不毛の地に“穴”を掘る毎日。ある日、ついにスタンリーは、
どこかにあるかもしれないイェルナッツ家の“約束の地”をめざして、決死の脱出を図るのだった。
五代にわたる不運をみごとに大逆転する少年。ニューベリー賞、全米図書賞ほか多数受賞。おなか
の底から元気がわいてくる冒険文学(紹介文抜粋)。


今月の一冊。KORさんご推薦の作品です。何の予備知識もなく借りたのですが、なかなか評判の
良い作品のようですね。最初、外国作家の棚で探したら見つからなかったのですが、それも
その筈、海外のYA棚コーナーに置いてありました^^;
確かに内容は児童書体裁ではありますが、大人でも十分楽しく読める一冊でした。これくらい
ライトなYA向け作品の方が、読みやすくて私には合っているのかも(苦笑)。

ただ、児童書体裁とはいえ、主人公スタンリー少年の身に振りかかるのは、なかなかにハード
な体験ばかり。そもそも、やってもいない罪に問われ、無理矢理児童矯正施設で労働を課せられて
しまうのだから、可哀想という他ないです。でも、彼はその自らの不運は仕方のないことと
受け入れてしまいます。なぜなら、彼の所属するイェルナッツ家というのは、代々肝心な時に
ヘマをしてしまう呪いにかけられていると言われているから。それもこれも、スタンリーと同じ
名前のひいひいじいさんがあるヘマをやらかしたことで、後世まで残る呪いをかけられてしまったから。
それで、イェルナッツ家の人々は、肝心な時にいつも一番やってはいけないヘマをやらかして
失敗してしまった時は、すべてひいひいじいさんの呪いのせいだと全部をその人のせいにして笑い
飛ばしてやり過ごして来たのです。どんな不幸も、それが自分のせいではなく、違う人のせいだと
思えれば、気持ちが楽になるって訳。ダメな時に落ち込んだり塞ぎこんだりしないで、ジョークで
笑い飛ばすって、ある意味前向きでいいですよね。
そういう家風のイェルナッツ家に育ったせいか、スタンリーは矯正施設で度々悲惨な目に遭っても、
どこかあっけらかんとその状況を受け入れているところがあって、読んでいてあまり悲壮感が
ないんですよね。十分悲惨な目に遭っているんですけどね^^;普通だったら、何で自分が
こんな目に遭わなきゃいけないんだって、理不尽な思いに囚われて、もっと陰鬱な感じになる
ような気がするんですけど^^;もともと、素直な良い子なんでしょう。施設の仲間たちから
やってもないひまわりの種を盗んだ罪に問われた時も、自ら罪を被る発言をしたりしたし。まぁ、
真実を打ち明けて仲間から報復されるのが嫌だったせいもあるんでしょうけど。

昼夜、決められた時間ひたすら穴を掘り続ける生活なんて、考えただけでもぞっとしますね。
以前、何かの拷問だか罰則だかで、穴を掘って、その穴をまた埋める、というのをひたすら繰り返す
っていうのがあるって聞いたことがあるんですけど、確かにそういう、意味のない行動を延々続ける
ってのは、精神的にもキツそうだなぁと思った覚えがあります。
まだ子供のスタンリーたちに課せられるには、あまりにも過酷過ぎるんじゃないかと思ったりも
したんですけどね。食べるものも水も最低限しかもらえないし、シャワーはたった4分間しか
お湯が出ない。管理官からは冷たくあしらわれ、理不尽な仕打ちを受ける。なんだか、ほんとに
囚人の生活そのままで、読んでいてムカムカしました。
特に、スタンリーがひまわりの種を盗んだ罪で女所長の元に行かされた時の、所長の言動に一番
ムカついたし、ぞーっとしました。なぜか、頭の中で女所長のビジュアルは、タイムボカンシリーズ
ドロンジョ様になってました(笑)。ヒステリックな女はほんとに何するかわからないので
怖いです・・・。

中盤を過ぎて、ゼロとの友情が深まる辺りから物語が盛り上がって行って、俄然面白くなりました。
特に、ゼロがいなくなって、それをスタンリーがが追いかけてからの、二人の逃避行の部分は
かなりハードなサバイバル冒険譚になって、ハラハラしました。ゼロの衰弱がどんどん酷くなって
行ったので、最悪の自体もあるじゃないかとドキドキしたのですが、ギリギリのところで切り
抜けて行くところが良かったですね。終盤はいかにもなご都合主義な展開とも云えるのですが、
事前に出て来た細かい設定が最後で効いて来て、あっと言わせるところなんかもあって、感心
しちゃいました。特に、黄斑とかげがスタンリーとゼロに食いつかなかった理由にはなるほど!
と膝を叩きたくなる理由が隠されていました。逃亡を続ける二人が窮地に陥った時に運良く
見つかった玉ねぎが存在していた理由なんかも、過去に起きた出来事と絡めてちゃんと納得が
行くように書かれtいるし、ご都合主義と感じそうな部分に巧く理由をつけて納得させる辺り、
なかなか巧い書き手さんだな、と感じました。

最後の急展開はちょっと唐突な感じもしましたが、勧善懲悪な結末でスカっとしました。
過酷な状況下に於いての人間関係や、窮地に陥った時の打開策など、少年スタンリーにとっては
いろんなことを学んだグリーン・レイク・キャンプ(名前だけはまともですが、実態は劣悪な
児童虐待施設ですが^^;)生活だったんじゃないでしょうか。
ゼロとの友情部分も良かったですね。

YA向けの冒険活劇小説としては、十二分に楽しめる一冊じゃないでしょうか。
面白かったです。
お薦めしてくださったKORさん、どうもありがとうございました。


来月は、公私共にかなり忙しくなりそうなので、もしかしたら海外物まで読む余裕はないかも^^;
でも、読みやすくてお薦めの海外作品は随時募集しておりますので、ご存知の方はご一報
いただけると大変嬉しいです(できれば、あんまり分厚くないやつ希望^^;)。