ミステリ読書録

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久保寺健彦/「ハロワ!」/集英社刊

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久保寺健彦さんの「ハロワ!」。


あなたのお仕事、探します! ワケありな求職者たちが次々訪れる、ハローワーク宮台。そこで
相談員として働く沢田信(28歳)は、理想と現実のハザマで日々奮闘中。果たして彼らに合った
仕事を見つけることができるか!? (紹介文抜粋)


なんとなく追いかけるようになってしまった久保寺さんの最新作。今回は、ハローワーク
相談員として働くことになった青年が主人公。いろんな求職者たちと触れ合いながら、一人前の
相談員として成長していくお仕事小説です。もちろん、タイトルの『ハロワ!』は、ハローワーク
の略。タイトルだけ見て予約した時は、ハロワって一体何だろう、と首を傾げていたのですけどね^^;
基本的には面白かったのですが、なんだかどのお話もオチが中途半端というか、え、ここで
終わるの?みたいな感じで、消化不良な読後感のものが多かったです。訪れる求職者たちに
なんとか適性のある仕事を紹介して就職してもらおうと頑張る沢田君の姿は清々しくて
良かったのですが、彼が世話する求職者たちがみんなワガママで仕事に選り好みする人
ばかりで、結局仕事が見つからずそのままっていうオチが多かったので、何だか、彼らの
ためにと必死で一人頑張ってる沢田君が可哀想になりました。もちろん、最近の就職事情
を考えると、そう簡単に仕事が見つからないっていうのが現実であり、リアルな実情なの
でしょうけど、それにしても、そういう世の中だからこそ、もっと真剣に就職活動に向きあう
べきだと思うんですが・・・。こんな甘い考え方じゃ、そりゃ会社だって断りたくなるよ、
とツッコミたくなりました。親身になって職を探そうと優しく接してくれる沢田君に甘える
相談者たちに、イライラしてしまいました。

ハローワークは私も以前に一度失業保険の関係で通ってたことがあるんですが、職探しの方では
ほとんどお世話にならなかったんですよね。でも、失業保険関係で接してくれた職員の方も、
沢田君のように親身になって接してくれるような人っていなかったなぁ。なんか、みんな
お役所仕事って感じで、機械的に処理してる印象しかなかったです。だから、ハローワーク
自体にあんまりいい印象がない・・・。周りも、職を失って精気のないような人が多かったし、
知り合いなんて出来る環境じゃなかった。ましてや、ハローワークで友達作るなんて、到底
思えない状況でした。本書に出て来る沢田ファンの求職者三人組は、仕事は見つからない
けど、ハローワークに来て沢田君と話したり、三人でつるんでることが一種の癒しのように
なっていて、それはそれでハローワークの存在意義があるのかなって思いました。まぁ、
真剣に仕事を探しに来る人にとっては、遊び感覚で来られても迷惑な存在でしかないでしょう
けど^^;

真面目な信が、既婚者の奈美とああいう関係になるとは思わなかったです。不倫はまずいだろう
と思いましたが、奈美の側の事情を考えると、自然な成り行きだったのかな、とも思いました。
近づきそうで近づかない二人の微妙な距離感に、ドキドキしちゃいました。普通の男だったら
絶対タガが外れるだろうって場面になっても、そうならないところが、信らしいのかな、と
思いました。もどかしい気持ちにはなりましたが^^;不倫なんて許せないと思う方だけど、
信のことは不思議と応援してあげたくなりました。どこまでも純粋だからかな。
でも、ああいう終わり方になるしかなかったのでしょうね・・・。

一番ショックだったのは、千堂に関して。出来れば、最後まで信の良き上司でいて欲しかった
のに・・・彼の本性を知って、がっかりでした。自業自得でしょうけど、信が尊敬して信じきって
いただけに、なんだか哀れになりました。人の人生なんて、いつどこで転落してしまうか
わからないものですね・・・悪いことをすれば、それだけ自分に返って来るってことなんで
しょう。

最後の話の、岸川の行動にも息が止まりそうになりました。何度も何度も会社から不採用を
もらって、人から拒否されると、やっぱり精神的に痛手を受けてしまうものなのかも・・・。
人の精神のバランスって、ほんとにもろくて弱いものなのだろうなって思いました。でも、
沢田の窮地を、沢田ファン三人組が救ったところは痛快でした。千堂とは逆に、彼らに対して
沢田が真摯に向き合っていた結果でしょう。良いことはしておくものですね(笑)。


なんだか、昨今の就職難の日本を象徴するような作品だな、と思いました。きっと、どこの
ハローワークでも、似たようなドラマが繰り返されているんでしょう。
私が次に転職する時は、相談員さんの意見を真摯に受け止めて、真剣に就活に取り組もう・・・
と心密かに誓いたくなりました(笑)。
まぁ、ハロワに沢田君のような相談員さんが運良くいてくれれば、の話ですけどね(苦笑)。