ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

中田永一/「くちびるに歌を」/小学館刊

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拝啓、十五年後の私へ。中学合唱コンクールを目指す彼らの手紙には、誰にも話せない秘密が
書かれていた―。読後、かつてない幸福感が訪れる切なくピュアな青春小説(紹介文抜粋)。


中田さんの三作目。評判良いので楽しみにしてたんですが、やー、ほんとに良かった。すんごく
良かったよ。恩田さんにあれだけ日数をかけたのが何だったんだって位、一日で一気読み出来た。

題材的には、さほど目新しさはないです。島の中学の合唱部が、合唱コンクールを目指して
紆余曲折する、という。合唱部を題材にした青春小説といえば、宮下奈都さんの『よろこびの歌』
がそうでしたね。あの作品も大好きだったんですが、好き度でいえば、こっちの方が断然上かも。
青春小説ではあるんですが、途中で出て来る伏線がきちんと最後に回収されるので、ミステリ的な
巧さも感じるところは、さすが○○(周知の事実ですが、一応伏せ字ね^^;)。主要登場人物の
キャラ造形もそれぞれに良かった。特に男子側の主人公サトルの気弱で優しくて、『ぼっちのプロ』
なんて性格は、いかにも中田さん(=○○さんね←しつこい)らしいキャラ造形で嬉しくなっちゃい
ました(ぼっち=ひとりぼっちのことです)。教室から孤立した傷心の少年キャラを書かせたら、
右に出る者はいませんからね(ほんとか?^^;)。
それに、音大出の元神童と呼ばれた美女音楽教師・柏木のキャラも面白い。普通、こういうタイプ
ならクールで何でも完璧にこなすいいオンナってキャラになりそうなところを、自称ニートで、
生徒たちへの指導は適当、乗ってる車はオンボロトラックって^^;口調も男っぽいし、友人の
体調に動揺して演奏がボロボロになったり、人間味があってサバサバした性格に好感が持てました。

コンクール用の課題曲がアンジェラ・アキさんの『手紙~拝啓十五の君へ』ってところが、
今風ですね。どうやら、中田氏自身が、この曲から着想を得て作品を書かれたのだそう。確かに
良い曲ですものね~。
作中に、一番が十五の自分が十五年後の自分へ、二番が十五年後の自分が十五年前の自分へ
宛てた手紙のことを綴っているから、一番が女性、二番が男性の声で歌う方が良いというくだりが
出てくるのですが、なるほど~!と思いました。確かに、この曲は二種類の声で歌う方がしっくり
来るのですね。アンジェラさん一人の声だと意識したことなかったんですけど。

合唱で歌うとまた印象の変わる曲ですよね。私も去年甥っ子の合唱祭観に行った時、この曲が
全体合唱(コンクールが終わった後、最後に会場全員で歌うシメの曲)で歌われていて、素敵
だなぁと思いましたから。
私が中学三年の時、十五年後の自分のことなんて想像もつかなかったですけどね。結婚して
子供もいるんだろうな~とか呑気に夢見てましたけど・・・現実は厳しかった^^;;

サトルと自閉症の兄のこと、サトルと長谷川コトミとのこと、仲村ナズナと向井ケイスケとのこと。
いろんな青春のエピソードが詰まっていて、どれもが苦くて甘い青春の1ページだと清々しい
気持ちで読めました。

もちろん、終盤の合唱コンクールでの、彼らの松山先生への思いを載せた歌声の描写も素晴らし
かった。五島列島の青い空と、生徒たちの澄んだ美しい合唱の声が渾然一体となって、大きな
感動を産む。これが、青春小説なんだ!って胸を張って作者が書いているのが伝わって来るような
気がしました。
でも、一番感動したのは、コンクールの後、サトルの兄の為に、みんなが合唱するシーン。
一人一人の歌への思いに、胸が熱くなりました。
ナズナのドロップのエピソードの種明かしのところも良かったな。母の言葉がわかるところも。
途中で出て来た謎がきちんと最後に繋がってるところがほんとに上手い。そして、それが感動に
繋がってるところが何より素晴らしい。


やー、ほんとに良かった。年間ベスト級の作品を年明け早々に読んでしまった気分。
これ、本屋大賞候補になるんじゃないかな。いや、なって欲しい。なるべきだ。
多分、今年イチオシの青春小説って言っていいと思う(いや、出たの去年だけどさ^^;)。
まっすぐでキラキラした青春がいっぱい詰まった、とっても素敵な青春小説でした。

アンジェラ・アキさんの『手紙~』聴きたくなっちゃった。


新年早々、ももべるこ記事でハッピー、ハッピー♪