ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田光/「文明の子」/楓書店刊

イメージ 1

太田光さんの「文明の子」。


地球、そして地球とは別の進化を成し遂げた星の過去と未来に秘められた謎。新たな文明へと踏み
出すために動き始めた子供たち。果たして人類の行く末は生か死か? 絡み合うパラレルワールド
が紡ぎ出す壮大な物語! 斬新なスタイルで描かれる太田光、渾身の書き下ろし小説(紹介文抜粋)。


芸人本二連チャンですみません(別に意図した訳ではなく、たまたまです^^;)。
爆笑問題太田光さんの第二作。書きおろしだそうで。それにしては、本筋に関係なさそうな
短編がいくつか挟まれているのがちょっと気になったのですが。最初は、前作のようなジャンル
ミックスの短篇集なのかと思って読み始めたんですよね。最初の数編読んでる限り、そう感じる
ひとがほとんどじゃないでしょうか。ただ、一作ごとに読み進んで行くと、前に出て来たキャラ
が再び出てきたり、微妙に人物関係がリンクしたりするのがわかってくるので、あれ、あれれ?
と思い始めると思います。で、いくつかのシリーズが並行して収録されてる形だってことが
わかってくるんですけど、最後まで読むと、そのいくつかのシリーズもきちんと一つに繋がる
ようになってるんですね。一作目の統一感のない短篇集に比べると、なかなか凝った構成に
仕上がっていて、感心しました。ただ、その中でも、ジョン・レノンと歌姫とサンタの話は、最後
まで本筋に関係あったのかよくわからなかったのですが・・・正直、その3つの話はなくても
良かったんじゃないのかな・・・と思いました。もし、本編と繋がってるとしたら、どういう
風な繋がりがあるのか教えて頂きたいです・・・私の読み取り不足の可能性も高いので^^;

読書メーターの感想を読んでいたら、手塚治虫作品からの影響のことを書かれている方が
いらしたのですが、確かに手塚作品から影響を受けたようなテーマが数多く入っているように
見受けられます。文明、科学、生と死、近未来、ロボット、人造人間、宇宙、空と海、親と子、
鳥と鳥人・・・。
なかなか壮大なスケールの世界観で、太田ワールド全開って感じでした。人間が科学によって
生み出す新たな文明と、その子供たちによる未来の姿とは。ちょっと風呂敷広げすぎちゃった
かな~って感じがしなくもなかったですけど、前作に比べると全体通して書きたいことが
明確になっていて、読む側としてはわかりやすかった。小説としての完成度もかなり高くなって
いるように感じました。前作は、とりあえず今まで書いた作品全部入れちゃえ的な、文章も作風も
てんでばらばらで全く統一感のない短篇集だったので、太田さんらしいカラーっていうのがどこに
あるのかよくわからなかったんですよね。太田さん自身がちゃちゃを入れたような文章が入った
作品なんかもありましたし。ただ、なんとなく今回の作品も、前作の中に収録されていた作品
の流れを汲んでいる感じはあったのですけどね(どの作品、と聞かれても答えに困るのですが^^;)。
だからまぁ、前作の発展型が今回の作品、と言ってもいいのかもしれません。一応、長編として
読めるような構成にもなってますし(一見、短篇集なのですが)。

文章は相変わらず取り立てて上手い、とも思わなかったのですが(^^;)、さらっと読めて
読みやすいのはいいですね。もうちょっと、文章表現に太田さんならではの言い回しなんかが
入ると、もっと個性が出るんじゃないのかな。クセがない分、記憶にも残らない文章って感じは
あるので・・・(偉そうですみません・・・)。

個人的には、ワタルとマナブが空飛ぶクジラに乗って旅するところが一番好きでした。二人が
出て来るお話の回が一番面白かった。後半、彼らのお話がいろんなところに繋がって発展して行く
ところは良かったですね。
ただ、一点、マナブが卵を口に入れたままどうやって泳いだのかが気になりましたが・・・(笑)。


まぁ、ちょこちょこ不満も書きましたが、トータルではなかなか楽しめた一作でした。
少なくとも、前作よりはずっと面白いと思えたし、好きでした。

ただね~・・・これで本屋大賞とか直木賞は・・・さすがにちょっと無理じゃないかな^^;;
いい作品だとは思うんですけどね。もうちょっと、全体的にすっきり読ませて欲しかったかな~
って感じはしました(あの、本筋に関係なさそうな短編が入ってなかったら、もっと高評価だった
と思われ・・・)。
世間的な評判はどうなんでしょうかね。