ミステリ読書録

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乾ルカ/「たったひとり」/文藝春秋刊

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乾ルカさんの「たったひとり」。

27年前に土砂崩れで半壊したラブホテルを探索に訪れた帝都大学の廃墟探索サークルのメンバー
5人。一行がホテルに足を踏み入れた途端、土砂崩れがおこる直前にタイムスリップし、土砂崩れが
おこるとまた事故の前に戻されるタイムループにはまり込んでしまう。ループから抜け出すには
事故で亡くなった1人を特定するしかない!? 5人は、1人ずつ建物に残って、土砂崩れに遭遇
する実験を始めるが――。極限の状況で噴出する5人のエゴと愛憎を容赦なく描き出す、著者畢生
の新感覚ホラー(紹介文抜粋)。


乾さん最新作。廃墟となったラブホテルで、何度も同じ時間が繰り返されるタイムループに
はまってしまった、大学の廃墟探索サークルのメンバー5人がメインの登場人物(というか、
ほぼその5人しか出てこない)。
イムループが一回繰り返されるごとに主役が交代。それぞれの人物が極限状態に置かれると
どうなってしまうのか、それぞれの個性が非常に良く現れていたと思います。どの人物も、
まぁ、醜いこと。極限状態になったら、人間誰しもがこうなってしまうのだ、と言わんばかり。
ただ、ここに出て来る学生たちは、持って生まれた性格の悪さも災いしていたのだと思います
けどね。唯一、日吉だけが辛うじてまともな方だったかなぁ。彼の卑屈さにも若干辟易は
しましたけど。でも、他の四人に比べたら、はるかにまともだったんじゃないかと。

一番嫌だったキャラはやっぱり間野坂だなー。口先ばっかり男。もう、ほんと嫌なヤツ。
自分より頭がいい人間に出会ったことがない、とか(酔っていたとはいえ)豪語しちゃう
自信家なとこも嫌だし、そうやって人を見下してたくせに、いざ死を前にしたらうろたえ
まくって挙句に吐きまくり。何なの、コイツ、と思いました。まどかの本性を見ぬいた途端、
手のひら返すような態度取るとこもね。自分を見下す人間なんてありえないんでしょうね。
どんだけ自分好きなんだよ、と思いました。
でも、二番目に嫌だったのはそのまどかですかね。自分で意識しないでも自然と他人を見下してる
所とかね。女が嫌う女って、こういう人のことを言うんだろうなーと思いましたね。私は
絶対友だちになりたくないタイプ。ま、そもそも私なんか完全にまどかから見下されるタイプの
人間なんで、友だちになってもらえるとは思えないですけどね。
そのまどかをどこまでも崇める葦原の言動も嫌だったなぁ。どこまでもまどか第一で、彼女中心に
物事をみてるところにうんざりしました。リーダーとしての威厳も尊厳も感じませんでしたしね。
まどかよりは自分に近いタイプかと思って親近感が湧いていた秋穂も、最終話の日吉の言葉を
聞いた後の壊れっぷりが凄まじかった。こんなイっちゃったタイプだとは・・・^^;;
思い込みの激しさでは、5人の中で一番でしょうね。それぞれに思い込みが激しいタイプばかり
なのは間違いないんですけどね。





ここからちょっとネタバレ。未読の方はご注意を~。










最後はもうちょっと救いがあるのかと思いきや、とことん救いがなくてどーーーーん、と落とされた
気分でした。問題の『たった一人』があの人物だったことも意外だったんですが、それよりも
その後の展開の方が驚いた。『たった一人』以外の四人も、それぞれに最悪の結末だったんで・・・
いやー、乾さん、人が悪いわ。間野坂に関してはいい気味、と思ったけれどね。助かって後は
安泰、と思ったんだろうけどもね。あのスカーフが、ここで効いてくるとは思わなかったです。












後味は最悪ですが、緊迫した展開で、とてものめり込んで読めました。人間のエゴ満載で、
イヤーな気持ちになること請け合いです(笑)。最近流行りのイヤミスと言っても良いかも
(最後ちょっぴりミステリ的な展開もありますので)。イヤミス好きの方は是非!(笑)
乾さんって、ほんとに、いろんな引き出し持ってるんですねぇ。毎回、全く違うタイプの作品
を書かれるので、作品ごとに驚かされてしまいます。
次はどんな作品が書かれるのか、目が離せない作家さんですね。