ミステリ読書録

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宮下奈都/「終わらない歌」/実業之日本社刊

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宮下奈都さんの「終わらない歌」。

卒業生を送る会の合唱から3年、少女たちは二十歳になった。御木元玲は音大に進学したが、自分
の歌に価値を見いだせなくて、もがいている。ミュージカル女優をめざす原千夏が舞台の真ん中に
立てる日は、まだ少し先みたいだ…。ぐるぐる、ぐるぐる。道に迷っている彼女たちを待つのは、
どんな未来なんだろう(紹介文抜粋)。


個人的にとても気に入った『よろこびの歌』の続編が出た、ということで、読むのをとても
楽しみにしていました。『よろこびの歌』から三年が経ち、それぞれの少女たちがどのように
成長しているのかを描いています。高校を卒業して、みんな道はそれぞれ。三年後とはいえ、
まだまだ若い。どの人物も悩み、惑い、道に迷っている。でも、彼女たちに共通しているのは、
三年前、みんなで一つになった合唱の記憶があること。一緒に一つになった仲間がいること。
その経験が、事実が、彼女たちの根底にあるから、辛い時、挫けそうな時も前に進める、強く
なれる。なんか、そういう経験があるのって、ほんと羨ましいなぁ、と思いました。

前作同様、玲の話で終わり、玲の話で閉じる構成。玲は音大の声楽家に進んだけれども、
音大では玲クラスの歌い手はいくらでもいて、彼女は自分の歌に対する自信を失っています。
友人の千夏はそんな玲の歌を信奉し続けていて、励ましてくれるけれど、実際クラスの中
でさえ一番になれない現実に打ちのめされる日々。そんな中、玲は千夏に連れて行かれた
カフェの店員に一目惚れしてしまいます。千夏はなぜか玲の恋に否定的。けれども玲は
聞き入れず、そのカフェでアルバイトをすることに。千夏が玲の恋を否定したのには、ある
理由があって、最後にその理由がわかります。ま、大抵の人は途中で気付いてしまうと
思いますけども(私もそうでした)。
玲のような女性が、ああいう男性に惹かれた、というのがとても意外でした。まぁ、恋愛に
慣れない玲らしいといえば、納得出来ないこともないのですが・・・なんか、すごく
勿体ないって思ってしまいました。彼女にはもっとふさわしい男性がいるのに~!みたいな(笑)。
もちろん、千夏にしてもそうですけどね。女の子って、一度はああいうタイプに惹かれるもの
なんですかね。気になったのは、なぜ千夏がわざわざあのカフェに足を運んだか、です。
普通だったら、避けるような気がしますが・・・。気まずくなかったのかなぁ。ちょっと彼女の
真意がよくわからなかったです。

他に好きだったのは、東京を出て地方で一人立ちしたあやちゃんの話かな。あやちゃんが
勤めることになった会社の先輩社員からの視点だったところがかえって良かったです。
社会に出て、慣れない仕事に心も身体もついていかない時期って確かにある。きっと端から
見ていたら、私も菜生のような気持ちになったかも。あやちゃんは、菜生のような先輩が
いたことが救いですよね。こういう時に、意地悪な先輩とかにいびられたりしたら、もう
精神的に辛いなんてもんじゃないですもん。しかも帰る実家も遠く、味方が誰もいない状態では。
名前で呼んでくれる人がいるって、それだけで心強いんじゃないかな。彼女がみんなで歌った
曲を大事にしているところも良かったです。

ラスト一作、玲がすんなり千夏の舞台で共演することが決まってしまうくだりはさすがに
ちょっとご都合主義に感じないでもなかったのですが、彼女が自分の歌に少し自信が持てる
ようになれたことが嬉しかったです。
七緒のキャラも、普通だったら鼻持ちならないイヤな女が出て来そうなところを、努力家で
真面目ないい子だったので、好感が持てて良かったです。三人の舞台観てみたいなぁ。


今回もみずみずしい文章で、読んでいて本当に爽やかな気持ちになりました。音楽がテーマ
だからなのか、宮下さん本来の文章なのか、言葉にすごくリズムを感じるんですよね。
気持ちいい文章というのかな。この方の感性、好きだなぁとしみじみ思いました。
とても良かったです。また、10年後の彼女たちとかの姿もいつか読んでみたいなぁ。