ミステリ読書録

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紅玉いづき/「サエズリ図書館のワルツさん2」/星海社FICTIONS刊

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就職活動に全敗し、頼みの綱でもあった「LB管理者採用試験」も体調不良による棄権を余儀なくされた
千鳥さん。ただ、自分にとっての天職を見つけたいだけなのに…。自分に自信がなく、といって好きな
ことも思い浮かばず、回復しない体調に苛立ちながら、なやみ、うなだれていた彼女に差し伸べられたのは、
人々の羨望を集めた“神の手”を持ちながらも、紙の本が稀少化したこの世界に絶望した、ひとりの
“図書修復家”の手だった―。“本の未来”が収められた、美しく、不思議な図書館を、紅玉いづき
紡ぐ待望のシリーズ第二弾(紹介文抜粋)。


先日一巻を読んでとても良かったので、早速二巻も予約してみました。意外と早く回って来て
良かった^^
一巻目は各章ごとに主人公が変わっていましたが、今回は最後の短篇以外はすべて一人の
人物が主人公。
今回の主人公は、就職活動に惨敗し続ける大学生の千鳥さん。身体も弱く、気も弱いので、
就職面接でことごとく失敗してしまいます。でも、実は千鳥さんにはなりたい職業があり、
その職業への思いが抜けない為、それ以外の職業への就職活動に本気になれないのです。
彼女がなりたい職業とは、図書修復家。紙の本が絶滅に等しい世の中で、需要があるとは
到底思えない職業です。彼女自身も、本当に図書修復家になりたいのかどうか、ずっと
自問し続けているのですが。彼女がその仕事に憧れを持つようになったのは、ある高名な
図書修復家の仕事風景を偶然見たことがきっかけ。彼女は、何度も彼に弟子にしてほしいと
懇願しますが、彼は頑として承知しませんでした。彼は、図書修復家という職業に未来はない、
本には延命する価値などない、と自らの職業に絶望していました。憧れの存在に拒絶され、
彼女は普通に就職する道を選ぶしかなかったのです。けれども、就活は厳しく、途方に
暮れていたところに、彼女はサエズリ図書館のHPでボランティアを募集していることを知ります。
紙の本のみを扱うこの図書館で働けば、本の価値がわかるかもしれない・・・そんな思いで、
千鳥さんはボランティアに志願する為サエズリ図書館にやって来るのです。そして、千鳥さんは
そこでさまざまな人と出会い、憧れの図書修復家とも運命の再会を果たします。果たして、
千鳥さんは、サエズリ図書館で本の価値を見いだせるのか・・・というのが今回のお話。

図書修復家を目指す千鳥さん、最初は、性格がオドオドしすぎてるし、何かっていうと体調不良に
陥って弱気になったりするものだから、ちょっと言動にイラッとするところもありました。
でも、体調不良にはちゃんと理由があったし、真面目で言いたいことが上手く言えない不器用な
ところは共感出来る部分も多かったし、何より古書修復家になりたいという強い熱意に胸を
打たれて、途中から頑張れ、と応援してあげたくなって行きました。そして、憧れの存在、
降旗先生に彼女の思いが届け、と願いながら。
千鳥さん中心に物語が進んで行くので、ワルツさんの活躍がちょっと控えめではありますが、
彼女の本に対する強い想いは今回も随所で感じられました。犬を前にした時の言動は意外
でしたね~。彼女の人間らしい面が見れたのはちょっと嬉しかった。それを克服しようと
頑張る姿もいじましかったですね。人間、誰にだって弱点はあるのだから、無理に克服しようと
しなくてもいいとは思うけれど。父親の分身とも云える本の為ならば、彼女にとってはそれも
必須の事項なのでしょうね。

タンゴ君が今回もいい味出してましたね。朴訥だけど温かみのある彼のキャラは結構お気に入り。
千鳥さんとの、ぎこちないながらも温かいやりとりが良かったな。
前作で出て来たレギュラーキャラたちの再登場も嬉しかったです。

最後、千鳥さんの願いが降旗先生に届いてよかったです。千鳥さんが出した交換条件に涙腺決壊
しそうになっちゃいました。それを素直に受け入れられるようになった降旗先生の心の変化も
嬉しかった。千鳥さんの強い思いが、頑なだった老人の心を溶かした訳だから。
師弟としてだけじゃなく、今後もずっと二人が寄り添って行けたらいいな、と思いました
(だって、彼女の中にあるのは、明らかに師への『愛』だからね。相手がそれに気付くか
どうかは怪しいところだけど^^;)。


それにしても、ラストの短篇には驚かされました。っていうか、ラスト数行に。サエズリ図書館
の常識人にして、ワルツさんの片腕であるサトミさんの正体が・・・しーん。なんか、知りたく
なかったような気もするけど・・・^^;;サトミさんには、サトミさんの事情がいろいろ
あったんですねぇ。これぞ、フィニッシングストロークの一篇と言っていいんじゃないでしょうかね。
最後の破壊力、凄まじかったです^^;


今回も、随所で本への愛が溢れていて、本好き魂が揺さぶられる作品でありました。とっても
良かった。
紙の本が絶滅に瀕する世の中なんて、考えただけでもぞっとするけれど、それだからこそ、改めて
本の素晴らしさが感じられる作品なのだと思います。
次巻も楽しみです。