ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

桂望実「エデンの果ての家」/藤崎翔「神様の裏の顔」

どうもどうも。こんばんは~。
いやー、ついに今年も残りひと月になってしまいましたねぇ。
なんか今年もあっという間だったなぁ・・・(って、まだあとひと月あるけどさ)。
年末ランキングも楽しみな季節になってきましたね。
今年も読み残しが山ほどありそうだなぁ。


今回は二冊です。相変わらず予約本ラッシュは継続中。12月は忙しいのに、現在回って
来ていて引き取ってない予約本が7冊・・・全部読みきれるでしょうか・・・。


では、一冊づつ感想を。


桂望実「エデンの果ての家」(文藝春秋
桂さんの新作。からっとした作品が多い桂さんですが、今回はかなり趣向を変えてかなりの
シリアス作品。母を殺した罪で逮捕された弟。兄として弟の無実を信じてやりたい主人公・和弘は、
父と共に弟の無実を証明する為の証拠探しに奔走する。しかし、弟の過去の言動を思い出す
につけ、その自信が崩れて行く・・・弟は本当に母を殺したのだろうか?
桂さんには珍しいミステリー作品。といっても、どちらかというと、『理想』と見做されていた
家族の真実と崩壊を描いた家族小説といった方が近いかもしれないです。
主人公の和弘は、エリート思考の両親から見放され、家族から一人孤立して育ちました。反対に、
すべてにおいて両親の期待に応えて来た弟の秀弘は、両親の愛情を一心に受けて育って来ました。
そんな弟が突然母親を殺した罪で警察に連行されてしまうことから、家族が一気にばらばらに。
両親の愛情をすべて弟に持って行かれて、幼い頃から家族の中で孤立してしまった和弘の
鬱屈や諦念が行間から滲み出て来て、読んでいて胸が痛かったです。
でも、そんな和弘は家族から離れて、大学時代の同級生久美子と結婚し、盆栽を専門に扱う会社を
立ち上げます。一流思考の両親からは当然良くは思われず、和弘はよりいっそう家族と疎遠になって
行く。けれども、その仕事は和弘にとっては非常にやりがいがあり、天職とも云える仕事でした。
盆栽と真剣に向き合う和弘の真摯な仕事姿勢には、心を打たれるものがありました。そもそも、
私自身、盆栽というものに非常にロマンを感じているところがあるので、和弘のキャラクターには
非常に共感出来るところが多かったです。あれだけ家族から冷たい態度を取られて育って来たのに、
全然ひねくれたところもなく、むしろそれだからこそ穏やかな性格に育ったのではないかと思える
ところがありました。反対に、すべてを持っているエリートの弟・秀弘の性格の方がかなりの難
ありで、その言動には嫌悪すべきものしかなかったです。それが、両親からの期待という重圧による
弊害なのだとしたら、和弘は、期待されずに放り出されて良かったのかもしれませんが・・・。
でも、やっぱり幼い頃から弟と比較され、家族から疎外されて育つというのは、子供にとって
いいはずがないですよね・・・。
ただ、弟の事件がきっかけで、和弘が父親と初めてきちんと向き合うことが出来たところは
良かったと思います。お互いに相手のことを誤解していた部分が少なからずあったようなので・・・。
終盤、和弘の妻の久美子が、和弘について父親に告げた言葉がとても深く胸に響きました。
血が繋がってなくても、久美子の方がよっぽど和弘の理解者であり、家族なのだと思えました。
久美子は本当にいい妻ですねぇ。もちろん、彼女は素晴らしい母親になるでしょうね。
でも、その言葉を受けてから、父親の和弘に対する態度が少し変わったことが嬉しかったです。
盆栽という仕事を通じて、二人の距離が縮まって行く辺りの描写も非常に巧いなぁと思いましたね。
最後は、あれ、ここで終わり?って感じもありましたが、ほんの少し光の見える終わり方で
読後感は悪くなかったです。弟の罪がどうなるのかは気になるところでしたが・・・まぁ、
十中八九答えは出ているようなものですが。
ページ数はさほど多くないのに、非常にどっしりとした長編を読ませてもらった気持ちに
なりました。盆栽に関する豆知識も読んでいて楽しかったですし。心理描写も巧みで、心に
響くシーンがいくつもありました。
個人的にはかなり心の琴線に触れる作品でした。良かったです。
家族のあり方について、考えさせられる力作だと思います。


藤崎翔「神様の裏の顔」
第34回横溝正史ミステリ大賞受賞作。元お笑い芸人さんが書いたという異色のミステリー。
元お笑い芸人がミステリを書いて何か賞を獲った、という噂は聞いていてなんとなく気になっていた所、
beckさんの記事で高評価だったので即予約。思ったよりも早く回って来ました(もっとかかるかと)。
うん、高評価の理由がよくわかる、非常に巧みな構成と、お笑い出身の方らしいテンポの良い会話とで
最後までとても面白く読み進めることが出来ました。
登場人物が多い割に、きっちり書き分けも出来ているので、ほとんど混乱せずに読めましたし。
とにかく、構成が巧いですね。神様のような人格者と言われ、ほとんどすべての人から慕われて
いた人物が突然亡くなり、葬儀が行われる。その葬儀で居合わせた人物たちが、それぞれに
語り手となって進んで行く群像小説なのですが。
神様のようだと言われた故人の裏の顔が、語り手たちによって少しづつ暴露されて行き、意外な
事実が次々と判明していく。そしてまた、その裏の顔に対してさらなる切り返しがあり、最後には
もっと驚くべき真相が隠されている、という、なかなかに凝った構成。
最後に明かされる事実には目が点になりましたねぇ。これは全く予想出来なかった。ただ、動機に
関してはちょっと理解出来なかったですけど。
文章は正直、まだまだ完成されているとは言い難いですが、会話文の面白さはさすが元芸人さん、
というセンスの良さを感じました。
特に、モンブラン登頂』の勘違いのくだりなんかは、アンジャッシュの勘違いコントそのまんま
って感じだなーと思いました。舞台なんかでやっても面白そう。渡部さんご本人の小説でも同じこと
思った覚えがあるのだけどね。
葬儀の席なのに、所々でユーモアが感じられて、不謹慎と思いつつ、何度かくすりとしちゃいました。
彼らが話している内容は、とてもくすりと出来るようなことじゃない筈なんですが^^;
それにしても、真相の黒さといったら。ある人物に関しては、多分何かしら裏があるんじゃないかなー
とは予想してたんですけどね。まさかここまでとは・・・。
細かい伏線が、すべてきっちり回収されるところもお見事。野菜に関してだけは、もっとずっこける
ような真相を予想してたんだけど、ここまで黒いとは・・・。ひ、酷すぎる・・・。ある意味、
サイコパスの犯罪とも云えるでしょうねぇ。全く悪気なくやってるところがまた。怖すぎ。
正史賞っぽい作品だとは思わないけど、ミステリとしては十分楽しませてもらいました。選評委員の
みなさんの高評価も納得の作品だと思いますね。
それと、道尾さんの選評を読んでいて、インパルスの板倉さんがミステリー小説を書かれていたことに
びっくりしました。小説書かれていることは知っていたけど。道尾さんが絶賛する『蟻地獄』、是非
読んでみたくなりました。あと、故・桜塚やっくんも小説書かれていたんですね・・・(しんみり)。
芸人さんって、やっぱり基本的に頭がいいのでしょうね。漫才とかコントのネタを考えられるのだから、
小説のネタだっていくらでも思いつきそう。うーん、羨ましい。
デビュー作でこれだけ書けるのであれば、今後も期待出来そうですね。次回作が楽しみです。